男たちのいやらしい笑い声を聞きながら、エイミたちは裏口から出た。
エイミは、すぐに辺りを確認する。
ここでなら暴れても目立たない。
ユリの前でなら、本性をさらけだしても問題ない。
エイミが臨戦態勢に入った、そのとき。
男性の大声が響いた。
声の主は、学校の化学教師、笠井だった。
男の一人が笠井を殴った。
男たちは、倒れ伏した笠井に次々と蹴りを入れた。
エイミが跳びかかろうとした、そのとき。
警ら中の警察官がやって来た。
男たちは慌てて逃げだした。
目立たずに解決できてほっとする。
ユリは尻もちをついている笠井に駆け寄った。
ユリの顔が、なぜか赤くなっていた。
両目もどこかうつろで、トロンとした表情をしている。
エイミは数秒間考えた後、結論に至る。
──翌日、登校中のこと──
エイミたちは学校に向かいながら、昨日のことについて話していた。
昨日のことについて触れると、ユリはアハハと笑った。
ユリは気まずそうに頬をかく。
ユリの顔がかっと赤くなった。
ユリ曰く。
カッコ良くて、男女問わず優しくて、最初は良い先生だなってくらいだった。
そんなある日。
授業についていけず悩んでいたユリに、放課後時間を作って、熱心に指導してくれた。
二人だけの授業をくり返すうちに、好きになってしまったのだ、と。
ユリは、頬を膨らます。
これまでエイミは、恋をしたことがない。
訓練と諜報活動に明け暮れる日々に、恋をする余裕などなかった。
エイミが答えに迷っていると、
そういうものなのか。
友だちのしあわせのためならば。
ユリの恋を応援する、と──。
エイミにできることといえば、それは。
──休み時間、教室にて──
そのために、笠井先生の身辺調査をすることにした。
エイミは音楽を聴くフリをして、耳にイヤホンを入れる。
そして、受信機のチャンネルを合わせた。
すでに、学校の至る所に盗聴器を仕掛けていた。
シラーズの開発した盗聴器は、超小型かつ高性能だ。
集音能力はずば抜けており、いくつもの専用チャンネルを設定することもできる。
近距離に複数設置しても混信することなく、電波を拾うことができる優れものだ。
そこで二人の会話は終わったが……。
──放課後──
下校時間を過ぎ、部活動の生徒も帰っていた。
校内にほとんど人は残っていない。
そんな中、笠井を尾行していると──。
笠井は周囲を警戒した後、ありえない場所に入っていった。
笠井は、女子トイレに入ったのだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。