第13話

第13話 ユリの好きな人
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2023/06/07 23:00
 男たちのいやらしい笑い声を聞きながら、エイミたちは裏口から出た。

 エイミは、すぐに辺りを確認する。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(人通りはほとんどないね)
 ここでなら暴れても目立たない。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ユリは、友だちだ)
(前の事件についても黙ってくれている)
 ユリの前でなら、本性をさらけだしても問題ない。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(よし、やるか)
 エイミが臨戦態勢に入った、そのとき。
???
待ちなさい!
 男性の大声が響いた。
姫野ユリ
姫野ユリ
あ、笠井先生っ!
 声の主は、学校の化学教師、笠井だった。
笠井先生
笠井先生
二人はうちの生徒だ!
悪いが二人を──
男性A
うるせぇ!
 男の一人が笠井を殴った。
笠井先生
笠井先生
ぐっ……
姫野ユリ
姫野ユリ
きゃああああ!
男性B
おっさんがかっこつけてんじゃねぇぞ
 男たちは、倒れ伏した笠井に次々と蹴りを入れた。
姫野ユリ
姫野ユリ
や、やめて!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(部外者が来ちゃったけど)
(ここは仕方ない)
 エイミが跳びかかろうとした、そのとき。
警察官
何をしてるんだ!
 警ら中の警察官がやって来た。
男性C
ち、サツだ
男性A
行くぞお前ら
 男たちは慌てて逃げだした。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(良かった、暴れずにすんだ)
 目立たずに解決できてほっとする。
姫野ユリ
姫野ユリ
先生、大丈夫ですか!?
 ユリは尻もちをついている笠井に駆け寄った。
笠井先生
笠井先生
ああ、大丈夫……
すまない、助けようとしたのに、情けない……
姫野ユリ
姫野ユリ
いえ、そんな……
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あら)
 ユリの顔が、なぜか赤くなっていた。
 両目もどこかうつろで、トロンとした表情をしている。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(この様子は、もしかして)
 エイミは数秒間考えた後、結論に至る。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(風邪ね)
 ──翌日、登校中のこと──

 エイミたちは学校に向かいながら、昨日のことについて話していた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
風邪は大丈夫?
姫野ユリ
姫野ユリ
え、何のこと?
 昨日のことについて触れると、ユリはアハハと笑った。
姫野ユリ
姫野ユリ
エイミって、ホント天然だね
風邪じゃないから!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
じゃあ何だったの?
 ユリは気まずそうに頬をかく。
姫野ユリ
姫野ユリ
じ、実はね
姫野ユリ
姫野ユリ
笠井先生のこと、その
憧れてるっていうか……
鈴木エイミ
鈴木エイミ
つまり好きってこと?
 ユリの顔がかっと赤くなった。
姫野ユリ
姫野ユリ
ま、まあ、そういうこと……
 ユリ曰く。
 カッコ良くて、男女問わず優しくて、最初は良い先生だなってくらいだった。

 そんなある日。
 授業についていけず悩んでいたユリに、放課後時間を作って、熱心に指導してくれた。
 二人だけの授業をくり返すうちに、好きになってしまったのだ、と。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
意外と乙女なのね
姫野ユリ
姫野ユリ
もう、茶化さないで!
 ユリは、頬を膨らます。
姫野ユリ
姫野ユリ
そういうエイミは、好きな子いないの?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
うーん
 これまでエイミは、恋をしたことがない。
 訓練と諜報活動に明け暮れる日々に、恋をする余裕などなかった。
 エイミが答えに迷っていると、
姫野ユリ
姫野ユリ
あ、まさか
エイミも、笠井先生のことが好きとか!?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
いやいや、ありえないって
姫野ユリ
姫野ユリ
えー、ありえないっていい方もムカつくー
あたしの好きな人なのにー
鈴木エイミ
鈴木エイミ
別に悪い意味でいったわけじゃないけど
姫野ユリ
姫野ユリ
まあいいけどさ
姫野ユリ
姫野ユリ
それじゃあさ、応援してくれる?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
別にいいけど
でも、先生と生徒の恋愛ってまずいんじゃないの?
姫野ユリ
姫野ユリ
それは、そうかもしれないけど……
ダメだからこそ、盛り上がらない?
 そういうものなのか。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
ユリは、先生と付き合えたらしあわせ?
姫野ユリ
姫野ユリ
そ、そこまではまだ考えてないけど……
姫野ユリ
姫野ユリ
で、でも……
しあわせかな
鈴木エイミ
鈴木エイミ
そう
 友だちのしあわせのためならば。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
わかった、協力する
姫野ユリ
姫野ユリ
あ、ありがとう!
 ユリの恋を応援する、と──。
 エイミにできることといえば、それは。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(やっぱり、諜報活動だよね)
 ──休み時間、教室にて──
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あの男の性格が最悪だったり、借金があったり、悪人と付き合っていたりしたら……)
(ユリの平穏が脅かされてしまう)
 そのために、笠井先生の身辺調査をすることにした。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(現在、笠井は化学準備室にいる)
 エイミは音楽を聴くフリをして、耳にイヤホンを入れる。
 そして、受信機のチャンネルを合わせた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(よし、感度良好)
 すでに、学校の至る所に盗聴器を仕掛けていた。
 シラーズの開発した盗聴器は、超小型かつ高性能だ。
 集音能力はずば抜けており、いくつもの専用チャンネルを設定することもできる。
 近距離に複数設置しても混信することなく、電波を拾うことができる優れものだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(笠井ともう一人、男の声が聞こえる)
(この声は、体育教師の伊豆田か)
伊豆田先生
伊豆田先生
わかってるだろうな
公になればお前も終わりだ
素直に従うことだ
笠井先生
笠井先生
わかってます
逆らうつもりなんてありませんよ
 そこで二人の会話は終わったが……。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(何か、不穏な雰囲気ね……)
 ──放課後──

 下校時間を過ぎ、部活動の生徒も帰っていた。
 校内にほとんど人は残っていない。

 そんな中、笠井を尾行していると──。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(えっ)
 笠井は周囲を警戒した後、ありえない場所に入っていった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(どういう、こと?)
 笠井は、女子トイレに入ったのだ。

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