姫野ユリは、首元にナイフを当てられ震えていた。
エイミは舌打ちし、チンピラ風の男から離れた。
チンピラ風の男は、地面に転がっていた角材を拾った。
それを使い、エイミの頭を殴る。
エイミは倒れ伏した。
男はお構いなしに、何度も角材を振う。
チンピラ風の男は、地面に角材を叩きつけた。
ユリは、絶望からへたり込んでしまった。
リュウジは、倒れ伏すエイミに近づいていった。
その瞬間だった。
気絶していたはずのエイミの身体が、勢いよく跳ねた。
ブレイクダンスのように身体をうねらせ、リュウジの顔面に蹴りを入れる。
鼻血が吹きだし、リュウジは戸惑う。
エイミは蹴りを入れた勢いそのままに身体を翻し、体勢を整えてリュウジに突進していった。
女子高生とは思えぬ瞬発力、跳躍力で跳びかかる。
リュウジの頭を抱え込み、脇腹で押さえつけた。
リュウジは激しく暴れるのだが、エイミはびくともしない。
エイミの右腕は、リュウジの首をガッチリと固定している。
感情を感じさせない声でいうと、まもなくリュウジは動かなくなった。
ズボンが黄色に染まっていく。
小便を漏らしたらしい。
エイミは、チンピラ風の男に向き直った。
チンピラ風の男は腰を抜かしていた。
逃げようとするが、腕を折られていることを思いだし、激痛で大声を上げた。
エイミは地べたに転がっていた角材を拾い上げた。
エイミは角材を振り上げ、勢いよく振り下ろした。
ガァン!
──しかし、頭にはヒットしなかった。
エイミは、地面を叩いていた。
チンピラは、そのまま失神した。
ユリが呆然としていると、
エイミが近づいてきた。
正直、理解が追いついていない。
エイミが何者で、何でこんなに強くて、かっこよくて──だけど、見惚れるような笑みを浮かべて……。
本当に、いったい何が何だか、サッパリわからない。
そのことを理解した瞬間。
堪えていたものが、一気にあふれだした。
ユリはエイミに抱きつき、わんわんと泣いた。
エイミはユリをなだめた後、仕上げに取りかかった。
ユリが脅される原因となった写真について。
リュウジらのスマホを一つひとつあらため、削除していった。
すでに警察には通報済みだ。
リュウジら半グレ集団は、ここを根城に薬物の取引、児童ポルノの売買など行っていた。
余罪もたくさんあるだろう。
ここには言い逃れできないほど、たくさんの証拠が残っている。
──翌日──
エイミは、姫野ユリに呼びだされて屋上にいた。
ユリは気まずそうに視線を逸らした。
『取調べにおいて、半グレ集団をとりまとめていた男が証言するに』
『たった一人の女子高生にやられた、とのこと』
『ただ、誰が半グレ集団を壊滅させたかは不明』
エイミは深々とお辞儀した。
少しの間があり、ユリがいった。
頭を上げると、ユリは微笑を浮かべていた。
どういう心境の変化かはわからない。
エイミの心の中にあるのは、諜報員としての打算のはずだ。
だけどそれとは別に、心の奥深くで、ほんのりとした温かみを感じた。
その温かみの正体はわからない。
でも今は、この流れに身を任せておけばいいはずだ。
エイミとユリは、握手する。
エイミにとって、生まれて初めての友だちができた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。