──放課後、教室にて──
α機関の諜報員らしく、秘密裏に調べればいい。
彼女のスマホは、指紋認証によるロックがかかっていた。
ロックを解除するためには彼女の指紋が必要だ。
エイミはカバンの中からアルミニウム粉を取りだした。
粉末をブラシにつけ、姫野ユリの机をなぞる。
すると、いくつかの指紋が浮かび上がってきた。
特殊なゼラチン紙を取りだし、指紋に押し当てていく。
シラーズが開発した、α機関のスパイグッズの一つだ。
人肌を精巧に再現しており、指紋を転写するだけでなく、そのまま指紋認証にも使えるという優れものだ。
──テニス部 更衣室──
テニスコートの近くにある更衣室にやって来た。
入り口からピッキングで侵入しようと考えていたが、テニスコート側から丸見えなので、できそうもない。
裏手に回り、マイナスドライバーを取りだし、磨りガラスの一部を破壊する。
割った部分から手を差し入れてクレセント錠を回し、窓を開ける。
ユリの荷物を見つけだし、スマホを取りだす。
そして、ゼラチン紙で複製した指紋を押し当てていった。
無事にユリのスマホのロックを解除できた。
メッセージアプリを開き、先ほどやりとりしていた相手を調べる。
相手は、社会の平和、平穏を乱すゴミクズだ。
手心を加える必要はない。
──エイミの家──
家に帰ってきて、ノワールに「リュウジ」について調べてもらう。
ノワールは『J─エシュロン』にアクセスした。
『J─エシュロン』とは、ニホンにおける通信傍受システムである。
通話データ、メール、メッセージアプリのやりとりなど、あらゆる通信データをすべて傍受、記録している。
やがて、ユリを脅迫するリュウジの正体が判明した。
暴力団は、親分子分、義兄弟、師弟──というように関係が明確で、警察もある程度は実態を把握している。
しかし半グレは、そういった関係性がほぼ皆無、繋がりが希薄なのだ。
ゆえにメンバーの情報を得るのが難しく、警察も取締りに苦慮しているとのこと。
自分がその諜報員で、若手のホープだということを忘れそうになる。
ニホンに来てまもないが、すでにきな臭さを感じる。
一見平和に見えたが、それは砂上の楼閣なのかもしれない。
α機関は、平和、平穏を維持するために活動している。
しかし映画のように、いきなり戦争を引き起こす黒幕を倒すことはできない。
どんな小さな火種でも、見逃さず、秘密裏に処理する。
それが、α機関の諜報員、ラブル──鈴木エイミにできることだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。