──ゲームセンター内──
エイミとユリは、レースゲームをプレイしていた。
ただ、エイミはゲームに集中できていなかった。
先ほどから複数の視線を感じた。
こういった感覚は、自然に身についたものではない。
訓練によって得て、研ぎ澄ましてきたものだ。
大自然の中、文明の利器を剥奪された人間は驚くほど脆弱だ。
サバイバルの知識は当然として、外敵から身を守る術も身につけなくてはならない。
周囲の自然と、自身の五感とを溶け込ませ、一体化するようなイメージだ。
それができるようになると、周囲で発生したわずかな変化さえも感じ取ることができる。
エイミは常に周囲の環境と五感を溶け込ませ、異変を感じ取れるように警戒している。
ゆえに、自身に向けられた奇妙な視線を捉えることができたのだ。
視線の主を特定したとき。
何も知らないユリは楽しげに叫んだ。
エイミはユリの手を強引に引き、出口へと向かった。
ユリは戸惑っていたが、
と納得してくれた。
出口に差し掛かったところで。
三人の男たちが立ちはだかった。
大柄の男は、出口を塞ぐように立っている。
エイミはとっさに店員を探した。
しかし、目のあった店員はそそくさと逃げてしまった。
男たちを倒すのは容易だ。
だが周囲には人がいるし、防犯カメラもある。
α機関を裏切った奴がどこに潜んでいるかわからない。
もしエイミの存在が敵に見つかったら、周囲の人間にも危害が及ぶだろう。
ちらりと横を見る。
ユリが、不安そうな表情を浮かべていた。
ここで騒ぎを起こすのは得策ではない。
男はユリの手を掴む。
男たちは一瞬、きょとんとするものの、すぐに大笑いした。
ユリの顔が青ざめた。
前回の事件のトラウマがよみがえったのだろう。
男たちが指さしたのは、反対側の出口だ。
本来なら絶対に行くべきではないが。
エイミは、動揺するユリの耳元に口を近づけた。
そういってやると、ユリは怖々ながら頷いた。
エイミたちは、男たちに囲まれながら、反対側の出口に向かった。
男たちのいやらしい笑い声が響いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。