第12話

第12話 視線を感じる
8,918
2023/05/31 23:00
 ──ゲームセンター内──

 エイミとユリは、レースゲームをプレイしていた。
 ただ、エイミはゲームに集中できていなかった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(誰かに見られてる)
 先ほどから複数の視線を感じた。

 こういった感覚は、自然に身についたものではない。
 訓練によって得て、研ぎ澄ましてきたものだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あれは四年前)
(グリズリーのいる自然公園でのサバイバルだった)
(そこで一週間、ナイフ一本で生き残れって指示だった)
 大自然の中、文明の利器を剥奪された人間は驚くほど脆弱だ。
 サバイバルの知識は当然として、外敵から身を守る術も身につけなくてはならない。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(重要なのは、匂い、音、そして視線を感じ取ること)
(それらを感知しなければ、身を守ることはできない)
 周囲の自然と、自身の五感とを溶け込ませ、一体化するようなイメージだ。
 それができるようになると、周囲で発生したわずかな変化さえも感じ取ることができる。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(身につけた感覚は、人間の生活スペースでも応用することができる)
 エイミは常に周囲の環境と五感を溶け込ませ、異変を感じ取れるように警戒している。
 ゆえに、自身に向けられた奇妙な視線を捉えることができたのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ねっとりとしていて、いやらしさも感じる視線だ)
(相手は男、三人組で、少し離れた筐体の陰から見ている)
 視線の主を特定したとき。
姫野ユリ
姫野ユリ
ゴール!
 何も知らないユリは楽しげに叫んだ。
姫野ユリ
姫野ユリ
もう、エイミったらビリじゃん!
こういうレースゲームは苦手なの?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
そろそろ帰ろ
姫野ユリ
姫野ユリ
えっ?
 エイミはユリの手を強引に引き、出口へと向かった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ここにいてはいけない)
(目的はわからないけど、私たちは注目されている)
 ユリは戸惑っていたが、
姫野ユリ
姫野ユリ
もう遅いし、そうしよっか
 と納得してくれた。
 出口に差し掛かったところで。
男性A
おっと、待ちな
男性B
ちょっと俺らと話そうよ
 三人の男たちが立ちはだかった。
 大柄の男は、出口を塞ぐように立っている。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(間に合わなかったか)
姫野ユリ
姫野ユリ
え、何、ナンパ?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
私たち、急いでるんですけど
男性C
そんなつれないこといわないでさ
少し話そうよ
 エイミはとっさに店員を探した。
 しかし、目のあった店員はそそくさと逃げてしまった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ダメだ、店員は頼りにならない)
 男たちを倒すのは容易だ。
 だが周囲には人がいるし、防犯カメラもある。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(目立つ場所で、目立つ行動は避けたい)
 α機関を裏切った奴がどこに潜んでいるかわからない。
 もしエイミの存在が敵に見つかったら、周囲の人間にも危害が及ぶだろう。

 ちらりと横を見る。
 ユリが、不安そうな表情を浮かべていた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ユリを危険にさらすわけにはいかない)
 ここで騒ぎを起こすのは得策ではない。
男性A
怖がらないでよ
ちょっと一緒に話したいだけなんだからさー
 男はユリの手を掴む。
姫野ユリ
姫野ユリ
あ、あたしを誰だと思ってるの!
あたしのパパは警察署長なの!
あたしに手を出したらパパに頼んで逮捕してもらうから!
 男たちは一瞬、きょとんとするものの、すぐに大笑いした。
男性B
おいおい、まだ何もしてないじゃん
男性C
話しかけただけで逮捕とか
そんな酷いこというとさぁ
通報できないように、色々弱み握っちゃうよ?
 ユリの顔が青ざめた。
 前回の事件のトラウマがよみがえったのだろう。
男性C
ま、そんなことしないから安心して
男性A
だからさ、あっちで話そうよ
 男たちが指さしたのは、反対側の出口だ。
男性A
あっちの方に俺たちの仲間の店があるんだ
ちょっとでいいからさ、一緒に遊ぼうよ
 本来なら絶対に行くべきではないが。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あっちは大通りの反対側で、人は少ない)
(あそこなら目立つことなく処理できる)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
わかりました
姫野ユリ
姫野ユリ
エイミ!?
 エイミは、動揺するユリの耳元に口を近づけた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
私に考えがある
大丈夫、安心して
 そういってやると、ユリは怖々ながら頷いた。

 エイミたちは、男たちに囲まれながら、反対側の出口に向かった。
男性A
二人とも可愛いねぇ
どっちも顔はアイドル並みだし
男性B
それに、そそる身体してるし
男性C
こりゃあ楽しめそうだ
 男たちのいやらしい笑い声が響いた。

プリ小説オーディオドラマ