スマホを取りだし、メッセージアプリを開く。
リュウジという男性をタップすると、
『代わりの女は出せば消してやる』
というやりとりで終わっていた。
ユリは奥歯を噛みしめた。
苦い思い出がよみがえるが、それを振り払い、通話ボタンをタップする。
通話を追えた後、リュウジから画像が送信されてきた。
それは、ユリがトイレで用を足している写真だった。
ユリは、半グレ集団に脅迫されていた。
どこかで利用したトイレで、盗撮されてしまったのだ。
リュウジは、
『逆らえば、お前の親父がいる警察署にバラまくぞ』
と脅迫してきた。
そこでユリは、単独でリュウジと交渉することにした。
ユリの要求は、写真の完全削除だ。
リュウジはその条件として、『可愛い女子高生を提供しろ』と要求してきた。
警察署長である父に、それとなくリュウジの所属する半グレ集団について尋ねてみた。
奴らは、未成年者の売春仲介、薬物売買などに絡んでいるらしい。
しかしガサ入れするほどの決定打はなく、警察としても動けないとのことだ。
ユリはこれまで、自分が助かるために、誰を売ろうか迷っていた。
学校の知人は──後腐れがあってダメだ。
かといって見知らぬ子を誘い、奴らに引き渡すのは難しい。
転校生で、下僕で、第一印象最悪で、気に食わない女。
しかし、連中はずっと待ってはくれない。
このままでは、父の出世がダメになるばかりか、ユリの恥ずかしい写真も出回ってしまう。
昼食を食べ終え、エイミは女子生徒たちと談笑していた。
α機関の裏切り者がどこに潜んでいるかはわからない。
ニホンは安全とのことだが、職業柄、常に警戒してしまうのだ。
エイミは教室を出て、トイレには寄らず、学内を散策した。
早めに学校内の構造を把握しておきたかった。
不意に襲われたとき、どこに身を隠せば良いか。
武器になるものはあるか。
それらの情報を脳内にたたき込み、事前にシミュレートしておくのだ。
敵がどこに潜んでいるかわからない以上、常に情報は集めておきたい。
そのために、各所に盗聴器を仕掛けておくべきだ。
とある空き教室に差し掛かったとき。
ユリはスマホを耳に当て、誰かと会話しているようだ。
教室の入り口から、そっと様子を窺う。
ユリの顔は青ざめていた。
やがて通話を終え、スマホを下ろした。
そのとき、スマホの画面に卑猥な画像が表示された。
ユリは、すぐにその画像を削除していた。
そのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
振り返ったユリと、エイミの視線がぶつかる。
ユリは、涙を流していた。
そういって、ユリは走り去った。
どうやらこの学校内にも、平和、平穏を脅かされている存在がいるらしい。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。