第6話

第6話 姫野ユリの悩み
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2023/04/19 23:00
姫野ユリ
姫野ユリ
(鈴木エイミ、許さない……!)
 スマホを取りだし、メッセージアプリを開く。
 リュウジという男性をタップすると、

『代わりの女は出せば消してやる』

 というやりとりで終わっていた。

 ユリは奥歯を噛みしめた。
 苦い思い出がよみがえるが、それを振り払い、通話ボタンをタップする。
リュウジ
よう、どうした
姫野ユリ
姫野ユリ
代わり、見つけた
リュウジ
いい女だろうな?
姫野ユリ
姫野ユリ
──あたしより、ちょっと劣るくらい
リュウジ
まあいいだろう
スケジュールは後で伝える
リュウジ
サツに通報するなよ
従わないとバラまくからな
 通話を追えた後、リュウジから画像が送信されてきた。
姫野ユリ
姫野ユリ
……っ!
 それは、ユリがトイレで用を足している写真だった。

 ユリは、半グレ集団に脅迫されていた。
 どこかで利用したトイレで、盗撮されてしまったのだ。

 リュウジは、
『逆らえば、お前の親父がいる警察署にバラまくぞ』
 と脅迫してきた。
姫野ユリ
姫野ユリ
(あたしのパパは警察署長……)
(キャリア組だから、いずれ県警本部長の席もあるっていってた)
(あたしが問題を起こして、台無しにするわけにはいかない……)
 そこでユリは、単独でリュウジと交渉することにした。
 ユリの要求は、写真の完全削除だ。
 リュウジはその条件として、『可愛い女子高生を提供しろ』と要求してきた。
姫野ユリ
姫野ユリ
(パパ活の仲介──)
(ううん、そんなソフトなものじゃない……)
 警察署長である父に、それとなくリュウジの所属する半グレ集団について尋ねてみた。
 奴らは、未成年者の売春仲介、薬物売買などに絡んでいるらしい。
 しかしガサ入れするほどの決定打はなく、警察としても動けないとのことだ。
姫野ユリ
姫野ユリ
(パパに『絶対に関わるな』っていわれてる奴ら)
(そんな奴らに、鈴木エイミを売る……)
 ユリはこれまで、自分が助かるために、誰を売ろうか迷っていた。
 学校の知人は──後腐れがあってダメだ。
 かといって見知らぬ子を誘い、奴らに引き渡すのは難しい。
姫野ユリ
姫野ユリ
(あたしの指示に従って、かつ売っても心が痛まない奴……)
(鈴木エイミならピッタリだけど……)
 転校生で、下僕で、第一印象最悪で、気に食わない女。
姫野ユリ
姫野ユリ
(──でも、本当にいいの?)
(いくら気に食わないからって……)
 しかし、連中はずっと待ってはくれない。
 このままでは、父の出世がダメになるばかりか、ユリの恥ずかしい写真も出回ってしまう。
姫野ユリ
姫野ユリ
(──あたしは……)
 昼食を食べ終え、エイミは女子生徒たちと談笑していた。
湯川サエ
湯川サエ
どう、このネイルチップ
可愛いでしょ?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
うん、可愛いね
おしゃれですごく良い
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(なるほど、つけ爪か)
(女子高生が身につけていても自然だし)
(武器としても適している)
 α機関の裏切り者がどこに潜んでいるかはわからない。
 ニホンは安全とのことだが、職業柄、常に警戒してしまうのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
トイレに行ってくるね
 エイミは教室を出て、トイレには寄らず、学内を散策した。
 早めに学校内の構造を把握しておきたかった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(いつ敵が攻めてくるかわからないからね)
 不意に襲われたとき、どこに身を隠せば良いか。
 武器になるものはあるか。
 それらの情報を脳内にたたき込み、事前にシミュレートしておくのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あとは、どこに盗聴器を仕掛けるか)
 敵がどこに潜んでいるかわからない以上、常に情報は集めておきたい。
 そのために、各所に盗聴器を仕掛けておくべきだ。
 とある空き教室に差し掛かったとき。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あれは、姫野ユリ?)
 ユリはスマホを耳に当て、誰かと会話しているようだ。
 教室の入り口から、そっと様子を窺う。
 ユリの顔は青ざめていた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(様子が変だ)
(みんなの前では女王様みたいだったのに)
 やがて通話を終え、スマホを下ろした。
 そのとき、スマホの画面に卑猥な画像が表示された。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あれは、トイレの盗撮画像?)
 ユリは、すぐにその画像を削除していた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(これは、いったい──)
 そのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
 振り返ったユリと、エイミの視線がぶつかる。
姫野ユリ
姫野ユリ
あんた……
 ユリは、涙を流していた。
姫野ユリ
姫野ユリ
いつからいたの?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
たった今
姫野ユリ
姫野ユリ
別に、目にゴミが入っただけだから
 そういって、ユリは走り去った。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
…………
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ボスの命令は、潜伏だけど……)
(私は何より、平和と平穏を望む)
 どうやらこの学校内にも、平和、平穏を脅かされている存在がいるらしい。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(調べる必要がありそうね)

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