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第4話

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2020/12/24 11:17
20xx年  12月 7日 金曜日  玲於
夏帆との 別れの時間が迫る。
今 SISTERが 最後の荷物確認をしている。夏帆と言えば、ハウスのドアの近くで 茶色のトランクを持ち、紺色のコートを着て、SISTERが来るのを待っている。

僕はというと、SISTERが纏めた荷物を持ち、夏帆の近くで待機している。
云わば、荷物持ちだ。
特に喋る事もネタも持ち合わせていない僕は 夏帆と目を合わせることをしないよう、俯きながら SISTERが戻ってくるのを待った。

隣には楓が居て、楓も同じように僕と荷物を持っている。
楓は幼い頃からずっと夏帆にお世話になっていて、云わば本当のお姉ちゃんのような存在だったのだろう。
今も僕と同じように俯いて、涙をいっぱいに溜めている。

その時、肩にずっしりとした感覚が乗った。
驚いて振り向くと、夏帆の手が僕と楓の肩を掴んでいた。
そして、夏帆は僕と楓と視線を合わせるようにしゃがみこみ、何かを押し殺しているかのように 顔を一瞬だけ歪め、小声で呟いた。
夏帆 (012)
玲於 .私は彼等に負けてしまった。この紙を見て。絶対にSISTERに見つかってはいけないわ。
絶対に貴方は負けないで,そして必ず,貴方達だけは ,貴方達だけは


「逃 げ 出 し て」

そう言った様に見えた。見えた、というのは 夏帆がそこから先を声にしなかったからだ。

そして、僕に1枚の紙を手渡した。
4つ折りになっていて、内容は見えないが、何故かその紙が 僕には酷く重たく思えた。

もう一度夏帆は僕の紙を握った手を握りしめ強く目で訴える。
此処から逃げろ,と。

僕の隣で、楓は豆鉄砲を食らったかのような顔で突っ立っている。

そんな僕らの様子を見て、夏帆はクスリと笑い立ち上がった。
そんな様子を見て、楓は焦ったように荷物を渡す。
夏帆 (012)
有難う,楓
後ろから SISTERが近付いてきた。
どうやら荷物チェックが終わったようだ。
僕は 慌てて紙をポケットにしまい、SISTERに荷物を恐る恐る渡す。
SISTERは 柔らかい笑顔で僕に有難うを伝え、夏帆の方を向いた。
SISTER
あらあら、最後のお別れ話かしら フフッ
夏帆 (012)
はい,玲於と楓には お世話になったので
何だこの違和感は。
SISTERの夏帆に対する異様な程の敵対感に、夏帆のSISTERに対する対抗心。
今迄ひとつ屋根の下で笑いあって来た事を両者とも忘れたかのように 鋭く視線の矢で貫きあっている。
SISTER
そうね…ニコッ じゃあ,行きましょうか ,夏帆
夏帆 (012)
……はい , SISTER 。
まるで 我が子の名を呼ぶように 夏帆の名前を呼び、ハウスを出ていくSISTER。
そして、その後を追って出ていく夏帆。
夏帆は1度僕と楓の方を向き、ニコッと笑った。

その笑顔はまるで、最期を惜しむような、ごめんなさいと有難うを合わせたような 笑顔だった。

寂しさで握り締めたポケットの中で 夏帆から貰った 1枚の紙がくしゅっと音を立てるのが聞こえた。
楓(024)
玲於,その紙見して
楓は 涙目で僕を見つめ手を伸ばす。
僕は少しだけ ドアから離れ、近くのベンチに腰を下ろす。


その紙は 二つに分けられていて、1つ目の上のマスには ,夏帆の身分証明のような物が書かれており、名前、誕生日、身長、体重等が沢山記入されていた。




それだけだったのなら、僕らはなんとも思わなかっただろう。
だが、問題なのはその下半分の 記入欄だった。



それは、上の欄と同じような構造で、夏帆の顔写真が貼ってあった。
そして、その隣には僕らには到底信じられない言葉が 並んでいた。












「絵乃華 雫」 「18歳」






「心臓病 ※ドナー必須」









20xx年 1月8日
「ドナー適応率が 極度に 低い為 , クローン技術 を 使用する。 」










20xx年 12月 1日
「12月7日 緊急手術が決定 , クローン “ No.015”を 緊急適応する。 尚、 クローンNo.015の 起動期間は 手術日を 持って 終了とする。 」

責任者
・ ーーーーーー
クローン育成技術者
・前園 春夏
玲於(036)
…………………  え  ?
僕らの時間の針は,きっとここで止まったのだ。

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