セツが崩れた。
というより、崩した。
僕は打ち込む。鋭く、抉るように、これでもかと思うほど。
耳には平衡感覚を司る器官がある。
何らかの刺激_______電流や音によってそれは乱れる。
そして、僕の場合は”音“だった。
周波数さえ操作すれば、直接その器官に呼びかけることは可能であり、そして能力であれば
無駄に周りに被害を及ぼすこともない____________
肋骨を折る。聞き慣れない骨の音。まるでなぶっているようで感じが悪い。
大腿に拳を貫き、血が飛び散る。頬に数滴ついてしまった。
少し生温かったけど、少ししたらすぐに冷めた。
セツは、よく唸ってくれる。
吸血鬼の殺し合いは基本タブーだ。
何故なら決着は、
相手の決定的な肉体の破損や、失血死が殆どだからね。
なぶって、散らして、ぐずぐずになるまで臓器を引き摺る……人道的に不適切だからだ。
セツの回復力は革命児の中で1、2を争うほどである。
穴のあいた大腿部、潰れた眼球も、着々と治っていっている。
だからこそ、加減を間違ってしまいそう。
赤、赤、赤…………抜けた血は生成されない。
あと一押し。意識を奪わないと。
そう挑発した途端
セツは目を見開いた。
瞬間、銃弾が飛んできた。
音よりも速く、機械のように正確で、ナイフよりも鋭く重い弾。
それが僕のこめかみを貫いた。
思考は止まる。焼ける。蒸発する。
だって、だってこの弾は。
ライナ・ブラッドリー
2007年7月19日生まれ 15歳
能力:睡眠
所属は潜入、誘導、暗殺の第7部隊。
小さい頃から訓練され、その腕は1流と言っても良い。
また軍内で義務化されている狙撃訓練でも、成績は優秀。
その武器は
回復の追いつかぬまままたこめかみを蹴られる。
能力も切れた。構え直しても、もう遅い。
右肩の肉が、弾け飛んだ。
ここまで来たら能力圏内だ、と言い肩を回す。
……どうする。
本当に、
殺してしまう。
セツは距離を取り拳を固めている。
僕は回復スピードでは勝てない。まだ全て回復していない。
目の前の街が瓦解する。炎が激しさを増す。
血溜まり、それもすぐ地面に染み渡る。
ここは………僕の
ここは僕の妄想だ。
一つの小さな事件から膨らんだ、ただの夢だ。酷い酷い、フィクションだ。
殴られる。これは幻影だ。そう。僕はセツを止めなきゃいけない。
波動は傍で感じる。守れ。動くんだよ
引きずられる。雑に切れた骨が見える。
やめて。
やめて。
やめて。
銃声がした。
僅か3cm前。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。