受け身からサッと立ち上がるセツ。
その視線は僕に注がれている。
ライナは今距離を取り、長距離狙撃銃を設置させているところだろう。
ライナはスナイパーだから。
構える。
セツがブンと横に蹴りを入れた。それを回避し、間合いに踏み込む。
腕に力を込め、拳をセツの頬へ振るった。
しかしセツは頭を揺らしただけで、あまり大きなダメージには至っていないらしかった。
腹にセツの靴裏が直撃する。その勢いは凄まじく、少し足がズレる。
しかしそれだけのステータスを持ってしても、セツはヒットアンドアウェイを崩さない。
正直なところ。しかし溢してはならない。
僕が止めないといけない。
右拳を防がれる。しかしそのまま僕もセツの足をかけ、バランスの崩れたところを左腕で殴る。
お返しと言わんばかりにセツも腹に決めてくる。欲張りはしない。距離が出来る。
僕は質問する。
あわよくば正気に…なんて思っていたがそんなに甘くないらしい。
………でもさっきの間はなんだろ?
激しい攻防。こっちはスピードも出して数も圧倒しているのに
セツはまだ倒れない、どころか余裕そうだ。僕の方もセツの方のも同じくらい攻撃したのに。
目の前まで詰めた。
逃げ場の無い袋小路。
僕は振りかぶってその鼻を殴りつけた_________
____________殴った感触と違和感。
確かに僕は殴った筈なのに、僕の右手は目の前の彼をすり抜けて_______
酷く尖ったもので背面を殴られた。
首下から痛みが全身をまわる。脊椎までいっちゃったかな……
いったいなぁ、その辺に落ちてた瓦礫かアスファルトかなぁ…
ふらりと立ち上がった。
瞳に映るセツは距離を置いて警戒していた。
ニコニコ笑う。
笑って、
僕はセツを吹き飛ばした。
また後を追う。
着地したのは別の街だった。人間の避難は終えてくれている。
能力:波動
それは波であり、振動であり、エネルギーである。
僕は能力を使う。
空気を身に、心に浸し、まるで波に揺られているよう。
セツが幻影を出す。風景を変えぬまま、幻のセツと僕の座標を新たに作る。
本物は、動いていないまま。
波動とは何か。それは能力者の解釈次第。
………………………………………………残念だったね、セツ。
僕は本体に殴りかかった。
セツは受け止める。その拍子に幻影は揺らぐ。
この世の全ての物質からは“波動”というエネルギーが波のように発せられている。
対してセツの幻影は僕らの神経なんかに呼びかける代物。実体はない。
よってセツの波動を感じるままに。僕は動けばいい。
僕の能力は波動。媒質は空気。
自らを波源として回折と干渉をある程度操る。
声に乗せて。蹴り合いながら。
セツはバランスを崩した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。