〜月柱屋敷〜
ー台所ー
……痛い。
痛い、のかもしれない。
何処が痛いのだろう。
自分の居場所が無い所で生きるのは、
心が痛くなるのだろうか。
…こんなに痛いのなら、
感情を無くしてしまえばいい。
無い方が今より幾分か楽だ。
余計な事を考えずに済むから…。
例えば、
私とあの女が交わした"契約"が、
"間違っている"
ということも。
考えずに済むから…。
なんて、
嘘だ。
本当は、
こうして
一人で料理してる時に
よく、
思い出してしまう。
家族の事を。
あれは確か、
半年前の事。
私と父と母、弟は
山奥でひっそりと暮らしていた。
とても貧しかったけど、
幸せな日々だった。
でもある日、
唯一の収入源だった商品が街で売れなくなって
うちはさらに貧しくなった。
だから
私は鬼殺隊に入って、
家族を助けようと思った。
私は生まれつき、
人より身体能力が優れていた。
鬼殺隊なら、
それを生かして収入を得られると思った。
そして私は、
山を降りる覚悟を決めた。
昔、
ある鬼殺隊の人が
山で鬼が出た時に心配して
一本の日輪刀を置いていったらしく、
私はその刀を持って山を降りた。
夜に山を降りたため、
案の定鬼と遭遇した。
私は感覚だけを頼りにして
鬼を斬った。
無我夢中だった。
気が付いたときには、
鬼の首と胴は切り離され、消え掛けていた。
その時だった。
ある女の人に声を掛けられた。
その人は鬼殺隊の隊服を着ていた。
そう、
その女が…
月詠 麗奈。
あの女は、
私から家族の事を聞き出し
私に言った。
「_ねぇ、契約しない?」
その一言で、
私の人生は
今のように狂った。
_狂わせたのは、私かもしれない。
それから私は、
あの女に言われるがまま従った。
言われるがまま鬼殺隊に入り、
あの女の任務をこなし、
全てあの女が鬼を斬ったという嘘をつき、
あの女はついに柱となった。
それからだった。
とても
耐え難い日々だった。
柱から見た私はこうだ。
弱い。
性格が悪い。
師範である麗奈に手を上げる。
笑わない。
つまらない。
つまり、
最低な人間。
完全に"悪"そのもの。
しかしあの女は、
強い。
優しい。
手を上げられても継子を見捨てない。
よく笑う。
つまり、
絵に書いたようないい子。
月詠麗奈。
あいつの本当の目的はこうだった。
自分中心の生活を送りたかっただけ。
でもそうするには、
自分の力が足りなかった。
だから私を利用した。
あの女は、
私に戦わせるだけでなく、
"悪者"という役まで押し付けた。
一瞬、
一瞬だけ、
思ってしまう。
自分が柱になれば
今みたいにならずに済んだんじゃないかなって。
そう、
一瞬だけ
思ってしまう。
考えないようにしてたのにな。
そう考えてしまうと、
何故か、
とても苦しくなるから。
涙が、
止まらなくなるから。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。