見れば、その人はとても辛そうに笑っていた。
……震えていた。
やってしまった、そんなのいくら私がアホでも簡単に分かる事だった。
……あれ?
アホって、昔、誰かに___
___アホ桐ィ!! まぁた授業サボりやがって…!
聞き覚えがあるが、思い出せない。
それどころか、今日までの記憶が曖昧だ。
……いや、そもそも私は今、何歳……?
黙り込んだまま、その場を静かに立ち去る。
あの人は、私とはどういう関係だったのだろうか。
今となっては何も思い出せない。
24……?
思っていたよりも時が進んでいて混乱してしまう。
もう、とっくに成人して、なんなら子供が居てもおかしくはない。
……いや、私を貰ってくれる人なんて居ないか。
嫌味を言ったつもりは、一切ないのだけれど。
何故かしのぶは、そう捉えてしまったらしい。
……ふと、無性に何かが食べたくなった。
そこで1番に思いついたのが、
なんというか、馴染み深いというか。
何処か懐かしい気がした。
食べ物、そう自分に問うと1番に思いついたのがお萩だった。
___ふと、首元に違和感を感じた。
翡翠の、ネックレス……。
瞬間、誰かの笑顔が頭の中に流れ込んできて。
でも、それでも、思い出せない。
きっと、私の大好きだった人。
愛していた人。
大切な人。
……かけがえのない人。
激しい頭痛が私を襲う。
……けれど、何とか持ちこたえた私は、結局何も思い出せないまま___病室へと戻ったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!