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第29話

不器用な優しさ
657
2022/07/20 13:52
本当は遥斗にはこの事を何があっても死んでも言うなっていわれてたんだけど
やっぱり言わなきゃと思って。
これ、亡くなる3日前の写真
湊さんが見せてくれたお兄ちゃんの姿は
顔色は悪く
もっと痩せていた
でも笑顔だった
絶対辛いはずなのに
優しい笑顔だった
これ、遥斗が毎日欠かさず書いていた日記です
それも遥馬くんには手紙も
遥馬
え…
1冊のリングノートと
綺麗に封された手紙
遥斗、誰も居ない時に息を引き取ったんです
誰にも看取られずに
きっと、死ぬ間際を見られたくなかったんです
遥斗毎日のように家族の事を話していて
もうかっこ悪い自分の姿は見せたくないって言ってたんです
だから、嫌いにならないであげてください。
遥斗なりの優しさなんです。強がりなんです。
だからお願いしますッ…
嫌いにならないであげてくださいッ…














--------キリトリ線--------
湊さんはお兄ちゃんの事を告げてからすぐに帰って行ってしまった
貰った手紙をぼーっと見る
叶愛
読まないの?
遥馬
あ、読む。
丁寧に封を開けて中を取り出す
お兄ちゃんの字ってこんなに汚かったっけ。
僕が勉強を教えてもらった時すごく綺麗だった記憶がある


遥馬へ
元気にしてる?突然居なくなった僕に腹を立ててる?嫌いになっちゃった?
この手紙を読んでるってことは湊が僕のこと言っちゃったんだよね。そんな気がする。
ごめんね。いなくなって。
きっと自分勝手にいなくなってとかって思ってるでしょ?でもね、もう僕は家族に迷惑も特に遥馬にはかっこ悪い姿を見せたくなかった。かっこいいお兄ちゃんで居たかった。ほんとに、自分勝手でごめんね。
お兄ちゃんはどんなことがあってもこの世に居なくてもずっとずっと遥馬の味方だからね。
お母さんとお父さんをよろしくね。ばいばい。


目から涙がポロポロ出てくる
全身の力が抜ける
遥馬
お兄ちゃん……
理由も無くお兄ちゃんの名前を呼ぶ
僕が間違ってた
知ってたはずだ
お兄ちゃんはなんでもひとりで済ませようとする人だって
椅子から立ち上がりお兄ちゃんがよく座っていた縁側に行き座る
お兄ちゃんが居なくなってから手入れがされていない畑が見える
雑草は長く伸びて
たまにきゅうりがなっているのを見かけるけど誰も収穫はしない
お兄ちゃんが居なくなって誰もこの縁側には座らなくなった
遥馬
お兄ちゃんッ…会いたいよッ
遥馬
ごめんッ…嫌いなんか言ってッ……死ねばよかったなんて言ってッ…
拭っても拭っても涙は出てくる
ずっとしばらく縁側で泣いていた
なんだか、お兄ちゃんが傍にいるような気がしたから
気づいたらお父さんもお母さんもリビングから居なくなっていて
叶愛が心配そうにこっちを見ていた
叶愛
そんなに泣くなよ…おれ、どうしたらいいかわかんねぇじゃん。
遥馬
でもッ…でもッ……
叶愛が僕の隣に座る
いつもお兄ちゃんが座っていた所だ
叶愛
勝手に日記見ちゃった
リングノートを渡される
叶愛
日記の中のお兄さんは、家族に会いたいとか
叶愛
遥馬と話がしたいとか
叶愛
辛いって言葉が沢山あった。
叶愛
でも、それを人に言わないのがかっこいいなんて間違ってるとは思ったけど
叶愛
でも、言わなかったのはすごいと思う
叶愛
遥馬ならすぐに嫌だ辛い無理って
叶愛
言ってるし
叶愛
俺もだけど
叶愛
すごくなんだかかっこよく思えた。
叶愛
かっこいいって人がいる分その人なりのカッコイイがあるんだね。
遥馬
……かっこよくならなきゃ。
叶愛
そのためにはテスト頑張らなきゃね
遥馬
…明日から頑張る。
叶愛
それ明日も言うやつだろ。
叶愛
まぁ仕方ないか
お兄ちゃん、僕もうちょっとだけ頑張るね。
いつでもお兄ちゃんが安心して帰って来れる場所作っておくからね。

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