第167話
霧の中
金井side
目の前は薄暗い。
まるで「霧の中」に1人でいる感覚。
誰かが俺の名前を呼んでいる。
ただその肝心な「誰か」が分からない。
声も遠く感じ、顔も分からない。
でもある感覚が分かった。
誰かが俺の手を握っている。
力強く、俺の手を握っている。
まるで俺が遠くに行かないように離さないように
強く、強く阻止している感じ。
寝ている俺でも分かってしまうのか病気なんやろか。
この手が誰の手なのか。
確認するために ゆっくりと目を開けた。
ほらやっぱり、この手は崇裕の手。
ゴツゴツしてる分、安心する手。
飛びついてきた望を骨折していない方の腕で
受け止める。
涙でグチョグチョの望の顔を見て胸が痛くなった。
今気付いたけどベッドの周りにはメンバー全員が
揃っていた。
しばらく抱きしめていた望の背中をポンポンと
優しく叩くと望は更に強く俺を抱きしめた。
そう言って本当に静かにスースーと寝息を立てた望。
静かに淳太が望を退かそうとするが
更に望が抱きついてきた。
…腕が地味に痛い。笑
優しく肩を揺らして起こす崇裕。
「膝枕」というワードに負けた望は
ノスノスと起き上がりソファーに崇裕も連れて
ゆっくりと歩いて寝っ転がった。
渋々大毅はマネージャーから俺の携帯を貰って
そのまま俺に渡してくれた。
俺も携帯を受け取ろうと手を伸ばしたが
誰かの手が伸びてきてそのまま携帯は
その誰かの手の中に包まれた。
誰か気になり顔を上げると
眉を下げた照史が立っていた。
打撲で済んだ右手は優しく照史の大きな手に
包まれた。
麻酔が切れて起きたから頭も左側全般も
声を出したくなるほど痛い。
無意識に右手が照史の手を強く握ってた。
そしたら照史も握り返してくれた。
それだけ伝えるとベッドからちょっと遠くにある
タンスからタオルを持ってきた智洋は
そのタオルを俺に渡してくれた。
照史の手を優しく退かして右手に柔らかいタオルを
渡してくれた。
照史と智洋は俺のそばに居て
たまに強くタオルを握るたびに
大丈夫やで、もうすぐ先生来るからなと
励ましてくれた。
その後痛み止めも強めの点滴を手にした
看護師と先生が入ってきて
俺はまた瞼を閉じた。
瞼を閉じる前に流星と大毅の
安心した笑顔が見れた気がした。