濵田side
最後に俺の手を強く握ったあなたは
そのまま意識をなくした。
意識が途切れる前にあなたが言っていた「大丈夫」
その場に立ち尽くした、俺たちは
あなたの「大丈夫」とマネージャーを信じ
あなたの部屋に戻った。
あなたの部屋に戻ると
まだ警察が居て、流星と神ちゃんが事情聴取
されており、
淳太はまだ若干過呼吸気味の望の相手をしていた。
しげと照史は、流星と神ちゃんに代わって
事情聴取の方へと行き
俺は淳太たちの方へと行った。
言葉では表してないけど、きっとあなたも
ショックやったやろう。
メンバーを巻き込ませて、
更には血が苦手な望に血を見せてしまったこと。
あなたは優しい。優しすぎるから。
俺よりも皆がって。そういう奴やから。
だからきっと、あなたも後悔してる。
過呼吸気味の望の背中を撫でる。
顔を見れば涙でグチョグチョ。
あなたが過呼吸の発作が起きた時のように望に接する。
涙と汗でグチョグチョの顔を優しく拭いてあげる。
5分位したら、落ち着いてきた望。
呼吸もいつものように戻ってきた。
少しだけ笑顔を見せた望。
「大丈夫」って言う言葉凄いな。
“大丈夫”“大丈夫” その言葉で
誰かを笑顔にできるんやから。
誰かを笑顔にするんやから。
不安げに俺を呼ぶ望。
顔を見ればちょっと疲れている様子。
前にあなたが言っていた。
過呼吸起こしたら全身疲れるって。
一気に安心するから余計、疲れるんやってさ。
そんなことを思い出していたら
望が俺の方に体をもたれるように倒してきた。
俺は右手で望の体を支えて、
望の体が痛くならないように、体勢を変えた。
ちょうどいい体勢になった時、
望の目が塞がろうとしていた。
俺は右手で望の腹を一定のリズムで叩いたり
頭を優しく撫でた。
安心したのか、直ぐに寝た望。
寝言であなたの名前を呼ぶ望。
大丈夫やでと言う思いを込めて望の頭を
撫でてあげれば、望は笑って俺の服を
強く握った。
警1「事情聴取も済んだので我々はここで…。」
警2「失礼します。」
警察が家から出て行こうとした時…
淳太がいきなり、警察官に言った。
座ってた神ちゃんも流星も
照史もしげも淳太の顔を見たあとに
警察官の方へ向いた。
俺も立ってはないけど、警察官の方へ向いた。
これ以上、あなたを傷付けたくない。
これ以上、あなたのあんな顔をさせたくない。
警1「分かりました。」
警2「また連絡致します。」
警察が出ていった後、
俺にもたれながら寝ている望を姫抱きにして
あなたのソファーに寝かす。
目にかかっている前髪を避け、顔が見えるようにする。
これはあなたが過呼吸を起こした時も
必ずやること。
望が寝ている顔を見てあなたが言っていた言葉を思い出した。
「これ以上俺から奪わんといて…。」
奪いたくないし、奪わせたくない。
俺だけが知っているあなたの過去。
ポケットから携帯を出して電源を入れると、
液晶画面には不在着信が2件あり
両方ともマネージャーからのものだった。
折り返して、マネージャーに連絡すると
1回目のコールで直ぐに出てくれた。
マネージャー
「おん、大丈夫。さっきまで手術してて。
今終わって麻酔切れるまで時間がかかるらしい。もう時間も時間やから、明日の朝来い。病院はいつもの所にしておいた。
その方が来やすいやろ?」
マネージャー
「分かった。」
マネージャー
「分かった。あいつの事は任せとけ。」
電話を切って、後ろを振り返ればメンバーが俺を見ていた。
俺以外のメンバーも全員泊まるらしい。
神ちゃんが布団やらを持ってきた。
ギャーギャー騒がしいリビングを後にし、
俺はあなたの部屋に行き、
あなたの仕事机とセットの椅子に座り
あなたの机に置いてある写真を手に取った。
その写真は、あなたの家族が楽しそうに笑っている写真。
フランスで撮ったんかな?
1番上のお兄さんから下の双子の兄妹に
おじいちゃんとおばあちゃんも映っている。
その写真の真ん中で1番楽しく笑っている
あなたのお父さんとあなた。
なぁ、おじさん。
俺はあの時のおじさんと交わした約束を
俺は守れていますか?
俺はちゃんと、メンバーとして、
第2の家族としてあなたを守れていますか。
俺は未だに…鮮明に覚えている。
あなたのおじさんの事。
おじさんの笑った顔も、真剣な顔も
何もかも…。
あなたを見ると、おじさんが重なる。
おじさんは…
あなたの前から…
突然、姿を消した。
そして、デビュー前のこと
あなたのおじさんは
山奥で遺体で見つかったこと。
おじさん、僕はどうすればもっと
あなたのことを守れますか?
椅子から離れ、あなたの部屋の窓から
空を見上げる。
もっとあなたを守れる力を僕に下さい。
ついさっきまでうるさかったリビングも
気が付けば静かになっていた。
あなたの部屋にあるベットに入り、
そのまま目を瞑り、眠りに入った。
この時、部屋の外で誰かが聞いてたなんて
知らなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。