第3話

気まずい
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2018/11/11 15:00

翌日、真妃はいつもより早く家を出た。信弥に遭遇したくなかったからだ。そしていつもより元気が無く、目にはくまが出来ている。昨夜は眠れなかったようで、そんな姿を朝早くに見られたくなかったからでもあった。

「 私、どんな顔して会えば良いんだろ..。」

道中にそんな事を考えながら、ボーっと歩いていた。すると、ドンッと何かにぶつかり、思わずよろめいた。

「 わ、悪ぃ大丈夫か? 」
「 ぇ? 」

突然声をかけられ、頭を擦りながら顔を上げると、そこには1人のイケメンと呼べるであろう美少年が心配そうに真妃を見つめていた。

「 だ、大丈夫..です。」

真妃は緊張して、相手の顔を見れずに逸らしてしまった。しかし彼はそんな事をものともせず、

「 そっか、それなら良かった! 」

と、明るい返事を返してくれた。

「 あ、俺は如月太陽。君は? 」
「 えっと..。神崎真妃..です。」
「 真妃か、よろしく! 」

どんな顔をしたらいいか分からず、緊張で顔が強ばっている真妃に対し、太陽と名乗った彼は常に笑顔を絶やさず向けてくれた。真妃はそんな太陽がとても眩しく感じた。彼の友達だろうか。"お~い太陽、早く行くぞ~。"と声を掛けられて、太陽早く友達の方を向くと"お~分かった~!"と返し、その後真妃に向き直り、

「 またぶつかったお詫びするから! 」

と言い残し、友達の方へ走って向かって行った。真妃はあっと声を上げ引き留めようとほんの少し手を伸ばしたが、直ぐにその手を引っ込めた。
如月太陽。彼は一体何者なのか。真妃は暫くその場に立ち尽くし、考えていた。


数十分後、学校に到着し教室に入ると、思いの外沢山のクラスメイトが既に何人かのグループで楽しそうに話していた。しかし、その場にまだ、信弥と月の姿は無かった。"まだ来てないのか。"と思った矢先、廊下から"キャー!"という黄色い声を上げた女子達の群れが、次々に廊下を走っていく姿が見えた。気にはなったものの、見に行く勇気もなく自分の椅子に座ると、信弥と月が一緒に教室に入ってきた。その瞬間、クラスメイトの男子達が信弥の周りに集合し、

「 お前西条さんと付き合い始めたっていう話マジだったの!? 」

と、興味津々に話を切り出した。
信弥と月が付き合い始めた事は、たった一晩の内に、あっという間に広がったらしい。

「 マジだけど、あんま騒がないでくんない?俺目立つの嫌いだし。」

相変わらずの冷めた顔で、ピシャリと言い放ち、スクバを肩に掛けて自分の席に向かった。信弥が近くまで来たというのに、気まずさにどんな顔すれば良いのか分からず、真妃はずっと顔を背けていた。

「 今の私には、とても踏み込めない..。」

真妃は机に突っ伏し、呟くが、その呟きは誰の耳にも入る事は無かった。


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