稀王《まお》くんに連れられた私は、校舎内の入り組んだ場所を通り抜け、地下までやって来た。
その道中では、他の男子生徒たちからの視線を痛いほどに感じた。
私はこの学園でただ一人の女生徒だから、何もなくても注目はされるのは当然だ。
しかし、稀王くんと歩いて感じたのは、それだけではなかった。
なんとか「姫」に手を出したい、だけど稀王くんがいるから適わない。
――そんな嫉妬と羨望が感じられるのだ。
白を基調とした扉は片開きで大きさはそれほどでもないものの、複雑な文様が彫り込まれ、所々に金の飾り付けがある。
そしてその中央丈夫には、何かの紋章のレリーフまで彫られていた。
そもそも、単なる同盟に個別の部屋が与えられるというのも不思議な話だし……。
「死神」と呼ばれる学園の男子生徒たちは、皆、すでに亡くなっている。
だけど将来有望な可能性をもった彼らを惜しんで、彼らには死神としての仮の体が与えられた。
そして、この学園―― 私立宙《おおぞら》学園高校、通称・死神学園で「姫」を巡って争いあうのだ。
稀王くんはノックもせずに扉を開けた。
勝手知ったる自分の部屋、という感じだ。
部屋の中では、ふたりの男子生徒が待っていた。
彼らは椅子から立ち上がると、私の前までやってきた。
そう言って燿音くんは人懐っこそうな顔に笑みを浮かべた。
那岐さんも、穏やかに微笑んで私を見つめている。
よかった、いい人たちそうだ……。
私はふとした疑問を口にした。
那岐さんが二年生なら、彼が盟主になるのが自然だと思ったのだ。
燿音くんと那岐さんが当たり前のように言うので、私は困惑した。
何か、私の知らないことがあるのだろうか?
七星財閥の名前は、当然私だって知っている。
この国の誰もが知るようなお金持ちで、表に裏に、財界を操っているという。
それまで黙っていた稀王くんが、言葉を発する。
那岐さんはにっこりと微笑んだ。
この死神学園――私立宙《おおぞら》学園高校に召還された「姫」はただ一人の女生徒であり、すべての男子生徒――生き返りたい「死神」たちから狙われる身なのだ。
燿音くんは私に向かって歩を進める。思わず後ずさろうとするが、背後は入ってきた扉だ。
隣には稀王くんが立っており、そして反対側の隣は……
那岐さんが手を伸ばし、私の左手をとる。
そしてすばやく、手の甲にキスをした。
燿音くんに間近で迫られる。
逃げ場のない私が体を強張らせた、その時。
隣に立つ稀王くんに、肩を掴まれ引き寄せられた。
稀王くんの動きは素早かった。肩に回した手を腰に滑らせ、ぐっと近くまで引き寄せられる。
そして、もう片方の手を私のおとがいに添えた稀王くんは――
初めての経験に固まってしまった私は、彼を振り払うこともできずにいた。
そして。
くちびるを離した稀王くんは、私の目をしっかりと見つめて宣言した。
稀王くん、那岐さん、燿音くん――
稀王くんだけじゃなくて、みんな芸能人だっておかしくないくらいカッコいい男の子たちだ。
その三人に求愛されて、私は。
私の悲鳴が三人に届くことはなく、この死神学園でのとんでもない日々が幕を開けようとしていた――。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。