第5話

本当の意味で共犯者になった時
2,092
2022/01/05 04:00


 夜も更けたころ、家の中から聞こえてくる物音を追って私はある部屋にたどり着いた。

 そこは血の匂いがしたあの部屋だった。


 私が物音の立つそのクローゼットを確認しようとした時、いつの間にか起きていた真緒まおくんに尋ねられる。

乙咩 真緒
乙咩 真緒
なにしてるの?
佐野 立佳
佐野 立佳
ま、真緒くん、……起きたんだね
乙咩 真緒
乙咩 真緒
部屋のドアも開いてたし、音が聞こえてきたからな
乙咩 真緒
乙咩 真緒
それより、余計なことまで知ろうとするのは命知らずってもんだよ?


 暗い部屋で私をじっと見つめる真緒くんは何を考えているのかわからず、言い表せないほどの恐怖を感じた。

 けど、ここで引き下がるなんてできない。

 きっとこの機会を逃せば、もう話してくれることはない気がする。

佐野 立佳
佐野 立佳
私もなにがあったのか知っておくべき……だと、思うの
佐野 立佳
佐野 立佳
頭がいい真緒くんのことだから、
逃げる道を選んでくれたのだって、私がなにかに役立つと思ったからじゃないの?
乙咩 真緒
乙咩 真緒
それはっ……!!


 私が強気に出ると真緒くんは動揺したようになにか話そうとしてくれたけど、そのまま口を閉ざしてしまう。




    ドンッ




 そんな話をしている間にもクローゼットからはあの物音が聞こえてきて、私はまた取っ手に手を伸ばした。

 けど、その手は真緒くんに握られたことで止められてしまう。

乙咩 真緒
乙咩 真緒
ちがう。一緒に逃げようと思ったのは、……嬉しかったからだ


 俯いている真緒くんは淡々とそう話し始めた。

乙咩 真緒
乙咩 真緒
けど、知られたら怖いことだってある


 真緒くんの顔を覗き込んでみると、声色とは裏腹に弱って縋るような瞳を向けられる。


 それは今までに見たことのない姿で、私はまた嫌な優越感を味わっていた。

 私を頼りにしていると言うその瞳を向けられることが、気持ちよかった。

佐野 立佳
佐野 立佳
大丈夫、私が真緒くんのことを知りたいと思ってるの。
ちゃんと守れるように


 私は今度こそクローゼットのドアを開けた。





 そこには、口をタオルで塞がれ、手足を拘束されているスーツ姿の女性がいた。

 その人はリビングの写真で見た真緒くんのお母さんにそっくりで、私は息をのむ。


 意識はあるようだけど、スーツの腹部には大量の血がにじんだ跡があって、とても弱っている様子だった。

佐野 立佳
佐野 立佳
(まだ生きてる……。
けど、ここに閉じ込めていたってことは……)


 私はクローゼットのドアを閉じ、真緒くんの方へ向き直る。

 また勢いよく物音がなり始めるけど、私はもうその音に耳を傾けないことにした。

佐野 立佳
佐野 立佳
真緒くん、起こしちゃってごめんね。
部屋に戻って寝よう


 私は、私が知っている優しくて心の弱い真緒くんを信じる。

 その真緒くんが間違っていたとしても、私にとってはそれが正しいから。






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