第12話

〈3 体育祭〉4
1,763
2019/01/11 02:53
(やっぱり……やっぱりやっぱり桐生君も‘バ‘のつく競技……! 桐生君のイニシャルもKだし、期待しちゃうよ~!)
そんな興奮状態の私に魔の声が届いた。
「理緒ちゃん達試合そろそろじゃない?」
その瞬間我に返り一気にテンションが下がった。
重い足取りで受付に行くとそこには榎本先生がいた。
榎本先生
榎本先生
お、佐倉これから試合か。はい、これ試合用のシャトル
手渡されたシャトルがさらに気を重くさせる。
(Kくんが見てるかもしれない試合、失敗ばかりするわけにはいかないよ……)
対戦相手の生徒も集まりコートへ移動しようとすると榎本先生がこっそりと耳打ちした。
榎本先生
榎本先生
シャトル、ちゃんと見ろ。あれだけ練習したんだから当たるさ
突然のアドバイスに驚きを隠せない。
佐倉理緒
佐倉理緒
あ、はい……。ありがとうございます
きっとひどい落ち込みように気を遣ってくれたのだろう。
微笑む榎本先生に頭を下げ、由奈の元へと走り寄る。
佐倉理緒
佐倉理緒
ごめん、お待たせ
月本由奈
月本由奈
理緒、がんばろうね!
そうして始まった1ポイント目。「シャトル、ちゃんと見ろ」と榎本先生の声がこだまする。そして、自分に言い聞かせた。
(シャトルをよく見て……、シャトルをよく見て……)
カコン!
ラケットに当たったシャトルは相手のコートへと打ち返されポイントを取ることができた。
佐倉理緒
佐倉理緒
や、やったよ! 由奈!
月本由奈
月本由奈
理緒! すごーい!
キャッキャとしているとすぐに次のポイントが始まった。
(よーし……。次も負けずに取ってやる!)
意気込みは良かったのだが──
ピ────……
「ありがとうございました」
程なくして試合は終了した。私はしょんぼりと由奈に謝る。
佐倉理緒
佐倉理緒
由奈、ごめん……
月本由奈
月本由奈
いいって。あたしもフォローしきれなかったし
そう、最初の得点はサービスのようなものだった。
結局コテンパンにやられてしまった私は落ち込んだのだが、クラスの皆は最初から期待していなかったようで、さほどガッカリしていなかった。
負けてしまったので線審をやる事になり、由奈とじゃんけんでどちらがやるか決めた。
じゃんけんに勝った私は由奈に線審を頼み、負けてしまったとKくんに報告に行くことにした。
理科室の前まで来るとなんだかドキドキと胸が高鳴る。
(もし、ここにKくんがいたらどうしよう……!)
そっと扉を開けると──
佐倉理緒
佐倉理緒
なぁ~んだ、誰もいないや
ホッとしたようなガッカリしたような気持ちで落とし物箱に近づきガチャガチャと音を立てて箱の中をかき回す。
佐倉理緒
佐倉理緒
えーっと……あった!
取り出したのはシャーペンと消しゴム。カチカチと音を鳴らし芯が出るか確認するとそれを持って自分の席へと向かう。
そして机に肘を突き手のひらに顎を乗せた。
佐倉理緒
佐倉理緒
あーあ……。Kくんはどうだったのかな
そうぼやきながら机の落書きを眺めた。
‘ごめんって! まあとりあえず体育祭楽しみだな! もう明日だぜ? 幸運を祈る‘

Kくんの書いた文字をなぞる。
佐倉理緒
佐倉理緒
本当に幸運祈ってくれたのかな? あっけなく負けちゃったよ
ぼそっとつぶやきシャーペンの芯をカチッと出した。
‘私は負けちゃったよ~。Kくんはどうだったのかな? ……バドミントンに運動おんちいた?‘
私はKくんが誰だかわからないけどもしかしたら彼は気づいたかもしれない。
そう思うとドキドキした。そして誰かが来る前にとシャーペンを元に戻し理科室を後にした。

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