(やっぱり……やっぱりやっぱり桐生君も‘バ‘のつく競技……! 桐生君のイニシャルもKだし、期待しちゃうよ~!)
そんな興奮状態の私に魔の声が届いた。
「理緒ちゃん達試合そろそろじゃない?」
その瞬間我に返り一気にテンションが下がった。
重い足取りで受付に行くとそこには榎本先生がいた。
手渡されたシャトルがさらに気を重くさせる。
(Kくんが見てるかもしれない試合、失敗ばかりするわけにはいかないよ……)
対戦相手の生徒も集まりコートへ移動しようとすると榎本先生がこっそりと耳打ちした。
突然のアドバイスに驚きを隠せない。
きっとひどい落ち込みように気を遣ってくれたのだろう。
微笑む榎本先生に頭を下げ、由奈の元へと走り寄る。
そうして始まった1ポイント目。「シャトル、ちゃんと見ろ」と榎本先生の声がこだまする。そして、自分に言い聞かせた。
(シャトルをよく見て……、シャトルをよく見て……)
カコン!
ラケットに当たったシャトルは相手のコートへと打ち返されポイントを取ることができた。
キャッキャとしているとすぐに次のポイントが始まった。
(よーし……。次も負けずに取ってやる!)
意気込みは良かったのだが──
ピ────……
「ありがとうございました」
程なくして試合は終了した。私はしょんぼりと由奈に謝る。
そう、最初の得点はサービスのようなものだった。
結局コテンパンにやられてしまった私は落ち込んだのだが、クラスの皆は最初から期待していなかったようで、さほどガッカリしていなかった。
負けてしまったので線審をやる事になり、由奈とじゃんけんでどちらがやるか決めた。
じゃんけんに勝った私は由奈に線審を頼み、負けてしまったとKくんに報告に行くことにした。
理科室の前まで来るとなんだかドキドキと胸が高鳴る。
(もし、ここにKくんがいたらどうしよう……!)
そっと扉を開けると──
ホッとしたようなガッカリしたような気持ちで落とし物箱に近づきガチャガチャと音を立てて箱の中をかき回す。
取り出したのはシャーペンと消しゴム。カチカチと音を鳴らし芯が出るか確認するとそれを持って自分の席へと向かう。
そして机に肘を突き手のひらに顎を乗せた。
そうぼやきながら机の落書きを眺めた。
‘ごめんって! まあとりあえず体育祭楽しみだな! もう明日だぜ? 幸運を祈る‘
Kくんの書いた文字をなぞる。
ぼそっとつぶやきシャーペンの芯をカチッと出した。
‘私は負けちゃったよ~。Kくんはどうだったのかな? ……バドミントンに運動おんちいた?‘
私はKくんが誰だかわからないけどもしかしたら彼は気づいたかもしれない。
そう思うとドキドキした。そして誰かが来る前にとシャーペンを元に戻し理科室を後にした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。