由奈と合流し、応援に回ったりお昼を食べたりしているといつの間にか下校可能時刻になっていた。
やることも特になかったので帰り支度をしていると由奈が急に声を上げた。
急いで体育館に行き片付けを始めるとドジな私は支柱で手を切ってしまった。
トボトボと保健室へ行き絆創膏をもらい教室へ戻ろうとしたが、まだ時間がありそうだったので理科室へ寄ってみる事にした。
(Kくんから返事、来てるかもしれないし……)
理科室の前まで来て扉に手をかけ開こうとすると、中に人影が見えた。
その瞬間ドキッとして手を離す。そして、そーっとのぞくと私の期待通りの人の姿が見え、急に心拍数が上がる。
(何で桐生君がここに……? もしかしたら落書きの返事を書きに来てくれたのかも)
そう考えるとドキドキは一層高まった。
(え? ば、ばれてるー!?)
いきなりの問いかけにあせった私は胸を押さえ大きく息を吸い込み気持ちを落ち着かせた。
そして、もう一度扉に手をかけたその時だった。
理科室の中から聞き慣れない声が聞こえる。
(……え? えぇー!? な、何?)
もう一度そーっとのぞいてみると桐生君の向こう側に見知らぬ女子生徒の姿が見えた。
(まさか……桐生君告白されてる!? 相手の子、誰なんだろう)
こっそりと盗み見るが見たことのない子だ。
(それで桐生君の返事は?)
ゴクリと唾を飲み込むと桐生君の言葉を待った。
急にかけられた声に驚き跳ね上がり、振り返るとそこには榎本先生が立っていた。
私は出してしまった声にハッとして、ゆっくりと理科室の方に目を向ける。
こちらに気づいた桐生君と目が合ってしまった。
(ど、どうしよう……)
こんなところで聞き耳を立てていたとバレたらおしまいだ。
とっさにごまかす。
榎本先生の話を遮るように続けて言った。
すると、榎本先生は私から視線を外し、中にいる桐生君達にも気がついた。
榎本先生が声をかけるとその女子生徒はコソッと桐生君に「今度返事聞かせてください」と言って走り去っていった。
榎本先生がそう言うと桐生君はペコリと会釈をして理科室から出てきた。
「はい」
桐生君と声がハモる。榎本先生は理科室に鍵をかけ、準備室へと入って行った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。