朝早く、眠る大和の腕を振り払い部屋を出るとたまたま陸がいた。
眠たそうに目を擦ってふらふら歩く姿を見る限り大方水を飲みに来た所だろう。
思いっきり目が合い、慌てて玄関のドアを開ける。
ドアを大きく開けて走り出す。
後ろを振り返ることなく突き進むなんて相当馬鹿な奴だろうと大和に笑われるだろう。
陸はまだ純粋だから分からなかったかもしれない。
だけどきっと他のメンバーは勘づいてる。
俺と大和の関係も、昨日の出来事も。
まだ夜中と言ってもいい朝方のはずなのに向かい側から天が走ってきた。
帽子にマスク、パーカーにマフラーをしている所から慌てて出てきた訳では無いようだった。
表情はいつも以上に怒っていてまるで鬼の形相。
目の前にたどり着いたかと思うと手が頬へと振り落とされた。
ヒリヒリとした痛みと同時に涙が溢れた。
天にこんな表情をさせるのは何回目だろうか。
失望感と情けなさで声も出なかった。
何故言わなかったのか問い詰められたがそれすら答えられなくてひたすら謝っていた。
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2人で寝ていたはずのベッドは冷たくなっていた。
あなたの私物は綺麗に無くなっていて匂いすらも残っていない。
ゆっくり、深呼吸をして再び眠りにつこうとした。
部屋のドアが強くノックされて目が覚める。
ナギの騒がしい声が聞こえ返事をするとドアは無理やり開けられた。
キラキラした目で俺を見つめ、近づいてくる姿は鬱陶しい。
片手にはここなのフィギュアとステッキ。
多分ここなのアニメの録画を一緒に見て欲しいと言いたいのだろう。
面倒くさそうな顔を向けた。
思わずため息をつきたくなる。
流石にライブまでは行けないかな、なんて思っているんだけど誰も助け舟を出してこない辺りきっともう被害者なんだろう。
ベッドから起き上がり、ナギへの期待の込められた視線を無視しつつゆっくりと着替え始める事にした。
ナギの喜ぶ姿を見て笑みが零れる。
ていうか、まだミツと喧嘩したまんまだったの忘れてた。
胃がキリキリして冷や汗もでるがナギの陽気な声に応えてあげたい。
仕方なく部屋を出る、ナギがミツと話していた。
今までと変わらないようにミツは俺と接してくれた。
3人で話しながらリビングへ向かうとリクとソウが挨拶を交わしてくれた。
なにか問いつめられるかと思っていたが何も無くて安心する。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。