朝、携帯が震える音がした。
眼鏡をかけて携帯を開く。
画面には"あなた"という文字が表示されていた。
電話には出たものの、声が聞こえない。
何も言われないけどどうしたんだ……?
そう思っていると通話は切られる。
また携帯が震える。
再び通知で名前があなたと表示される。
急いでまた携帯を開く。
"今寮に向かってる"
上着を羽織ることもせず、靴だけは履いてドアを開ける。
まだ誰も起きてない早朝。
静かに早く出ていく。
走って、走って名前を呼んだ。
·
歩いて、ようやく寮の近くに辿り着いた。
大和になんて言われるだろうか。
怒られてもいい、それでも俺は帰らなきゃ。
大和は大きな声で俺を呼んでいた。
本当は応えてあげたいのに、声が出ないから無理なんだ。
足を止めてしまう。
その言葉に背中を押された気がした。
再び歩く。
やっと、大和の元へ手を伸ばす。
大和が優しく抱きしめてくれた。
久しぶりに感じる、誰かの暖かさ。
誰かに必要とされて大切な人がいること。
·
社長と万理さんに謝りに行った。
深くお辞儀をして、再びこの事務所で働かせてくれることになった。
そばで見ていた大和がふっと笑う。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。