その日はTRIGGERのライブだった。
初めて出演をプロデュースしてみると客の反応ももちろんTRIGGERの反応も良かった。
頂点に君臨したような、そんな風に見えた。
誰もがTRIGGERを欲しがっている。
最高なTRIGGERを見たいと願っている。
舞台袖からステージに立つTRIGGERを眺める。
全てを知っていたかのように嘲笑う九条さん。
俺はその顔が大嫌いだ。
だからこそ、頼らなければいけない。
あなたを超えてこの悪夢から覚まさせてやる為にも。
TRIGGERも九条さんも、きっとわかる日がくる。
やがて、ライブは終わり静けさが戻ってきた。
客は家路に着きTRIGGERは反省会を行っていた。
本人達にしか分からないこと、必死にメモをして次のライブに生かす。
なんでこんなに一生懸命なのかって?
決めたんだ、九条さんを超えてTRIGGERもIDOLiSH7もRe:valeも悪夢から覚まさせてあげるため。
九条さんを頼る人がいなくなるように。
覚めたら大和にちゃんと言えるかな。
2人で笑いあっていられるのかもしれない。
そんな不確かな希望を持ってる。
いつの日にか、皆がTRIGGERがRe:valeがIDOLiSH7が笑える日を。
もう誰も悲しまなくてすむように。
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ある日のオフ。
本を読む大和さんを買い物に誘った。
今の心境を聞くためでもある。
いつもは小言を言って着いてこない大和さんだけどなにか考えているのか今日は着いてきてくれるみたいだ。
大和さんは俺の服の裾を掴んでそう言った。
寂しそうに悲しそうに声を絞って。
足を止めることなく玄関へ向かい靴を履く。
大和さんのいる気配はする。
後ろを振り向くとやっぱり大和さんはいた。
その鋭い眼差しは俺を捉えた。
ゆっくりと大和さんの瞳に俺が映る。
あんたには俺が……和泉三月は敵にでも見えるか?
大和さんはあんまり感情に流されない方だと思っていた。
だけど、仲間思いのせいか引きずっているように見える。
ナギは怒っているのか、喋り方がいつもよりも丁寧で怖い。
ナギの背後にいる陸はすっかり怯えている。
大和さんは見向きもせず部屋に戻って行った。
ただ俺は傷つけただけで何も変わりなどしなかった。
ナギは俺を優しく撫でてくれた。
その言葉に思わず胸を打たれる。
目尻が熱くなり、涙が溢れる。
こぼした涙はまだ冷たい。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!