まずい、一織くんに見られてた。
夜にでも皆に報告しようと思っていたのに。
その言葉を聞いた途端、一織くんは呆然としていた。
ちゃんと本人の口から聞きたかった言葉のはずなのに。
僕の言葉に納得がいかなかったのか、事務所へ入っていった。
社長にでも文句を言いに行ったのかもしれない。
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それから夜、IDOLiSH7のメンバーに夢二あなたが事務所を辞めたと万理さんから報告された。
殆どが落胆し、嘘だなんて言葉を並べていた。
その中で1人、大和は何も言わなかった。
その態度に怒りを覚えたのか、三月が大和を殴った。
空気が静かになり誰も何も発さなかった。
それでも誰もあなたに連絡しようとしなかった。
きっと怖かったんだろう。
なんと言われるか分からない、そんな不安があった。
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睨みつけてくる天さんは、陸くんとは全然似てなかった。
陸くんもそんな顔をしているんだろうか。
何も言わなかった俺を皆はどう思っているんだろうか。
俺の話を聞いて睨みつけていたはずの天さんは優しい表情になっていた。
本当は、優しい人なんだろうと心の底から思った。
ベッドに無理矢理倒された。
おやすみ、と声をかけると天さんはどこかへと行ってしまった。
本当は逆の立場なんだろうけど今日だけは、甘えていいのかな……
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この気持ちは誰に向ければいいのか分からなかった。
もやもやして、決して良くなるわけじゃない。
目を覚ませば、頭がズキズキと痛む。
恐らく昨日のビールのせいだ。
重たい体を起こして、リビングへ向かう。
いつもみたいに皆の声が聞こえる。
学生組がドタバタと登校していた。
何も無かったようにいつも通りの日常が始まった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!