一織side
あなたさんは泣き始めた。
きっと大和さんと喧嘩でもしたはず。
私が慰めないと、きっと彼はこのまま1人で泣き続ける。
腰に手を回し、ゆっくり引き寄せる。
身長差なんてそんなにないはずなのに小さく見えて愛おしく思えた。
しかも、ここは廊下。
いつ誰がこの状態を見てもおかしくない。
ひとまずあなたさんの部屋に戻ることにする。
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大和side
ミツに引きずられながらも寮に戻った。
部屋に行ってみたけどやっぱりあなたはいなかった。
イチがなんで知ってるんだ?
あなたが部屋から出たのか?
あなたの部屋のドアをノックする。
大和が近づいてくる。
やっぱり恐怖がある、なにかされるんじゃないのか。
思わず、顔を逸らす。
無理に笑う大和はそのまま部屋から去ろうとした。
何も出来ない、引き止めたって大和はきっと怒る。
何も言えないまま大和はいなくなった。
また空っぽになったように涙さえも出なかった。
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次の日
今日から柊和との仕事が始まる。
まずはライブの告知やレッスンなどする事は沢山ある。
あんまり気乗りしないけど、これは仕事なんだから。
柊和とも目を合わせずにレッスン室に向かう。
悪い雰囲気が漂う。
冷や汗が出て、呼吸が辛くなる。
なにか、されるんだ。
誰かが言ったんだ、悪い事をした子には罰が下る。
話を途切れさせるように、急いで歩いた。
手を掴まれ力強く握りしめられた。
1度も母は俺に笑いかけてくれなかった。
全部偽物の仮面を被った夢二あなたに愛情を注いだだけだ。
柊和は腕を掴んだまま離してくれなかった。
その蔑んだ目は、俺に対してなんだろう。
母を慕わない事も柊和を否定する事も全部気に入らないから。
手が大きく振り上げられ、気づいた時にはもう頬を叩かれていた。
そう、俺を罵って柊和はレッスン室へ走っていった。
俺が間違いだったのか?
母に対する思いも、今までしてきた事も。
しばらく座り込んだまま立ち上がれなかった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。