放課後の教室。
グラウンドからは賑やかな部活の声が聞こえてくる。
私は自分の席に座ったまま、今日返された定期テストの答案用紙を見つめて固まっていた。
千夏がペンをくるくる回しながら覗き込んでくる。
赤い数字。57点。前より下がってる。
千夏は笑いながらも、私の筆箱を指先でつん、と押した。
言葉が軽いようで、どこか本気のトーンを混ぜてくるのが彼女らしい。
窓から見える空は、綺麗な夕焼けのオレンジ色。
机に反射する光を眺めながら、スマホを取り出す。
SNSの通知。ひとつ。
『数学の問題集、1冊解き終わった! ちょっと達成感』
——投稿者、先輩。
画面に映るその笑顔は、相変わらずキラキラまぶしい。
同じ部活だったあの人。同じ高校に通えたらいいな、なんて。
だけど、私が頑張りたい理由は、先輩みたいになりたいから。
でも現実は——あこがれることすらできないくらい、遠い存在。
頑張ってる先輩の投稿をスクロールするたびに、自分の“何もできなさ”が浮き彫りになる。
追いかけたいのに、何をすればいいのかわからない。
まるで、走る前から諦める癖がついちゃったみたい。
千夏の言葉に、胸の奥がチクリとした。
そうか——私は、まだ“始めてもいなかった”んだ。
できない理由ばかり探して、最初の一歩を怖がってる。
そう言ったとき、千夏の表情がほんの少し真面目になった。
その言葉が、不意に刺さった。
“ひなはひな”。
そんな当たり前のこと、いつの間にか忘れてた。
私は誰かの後ろ姿ばかり見て、自分の足元を見ていなかったのかもしれない。
教室の時計の針がカチリと音を立てる。
窓の外では、部活帰りの声が風に流れていく。
中学2年の秋。
受験なんてまだ先だと思ってたのに、気づけば1年ちょっと先の話になってた。
時間って、思っているよりずっと早い。
家に帰って机に向かう。
ノートを開くと、インクがかすれてるページが目に留まる。
何度も「頑張る」って書いて、途中で消した跡。
……このまま終わらせたくない。
私は新しいページを開いて書いた。
“塾 体験授業”
書いた瞬間、胸の奥が少しだけ前を向いた気がした。
明日、千夏に話してみよう。
私も行ってみたいって。
ほんの少しの勇気で、何かが変わるなら。
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。