第5話

モトキの日常
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2018/11/21 11:06


『ホントにっ!ホンットに!!可愛い!可愛いよっ!!』
俺と同じ顔の奴が俺の顔を褒めている。彼は裏の俺。どうやら俺のことが心底好きらしいのだ。俺は彼のことは嫌いではない。しかし、
『俺はこんなに君のこと可愛いと思ってるのに、どうして君は俺のこと思ってくれないの???
俺と一緒に裏の世界に行こうって言ってるじゃんん!!!』
この通り、情緒が不安定なのだ。こういうところ、直して欲しい。すると急に視界が反転した。背中に痛みが走る。お腹に重みを感じる。見てみると裏の俺が馬乗りになっていた。
『ホントに、可愛い顔。その可愛い顔に傷がついたら...もっと可愛いだろうな〜♡』
『君はおかしいよ。俺は君のこと嫌いじゃないよ。』
ところが俺は地雷を踏んでしまったようだ。
『嫌いじゃないってなんなんだよっ!!!!!俺は好きだって言ってるのに!!!!!!君は俺のこと好きじゃないって言ってるんだよ!!??
そうだな、ここにナイフがあったね。でも、殺しちゃったら可愛い顔が台無しになっちゃうねえ。傷でもつけようかなあ??www』
俺にこんな恐怖を抱いたのは初めてだ。裏の俺、こいつはやばい。
『死なない程度に傷つけて...そしたら、もっと可愛くなるのかな?ふふふっ...』
『俺には、大事な仲間がいる。だから勝手に裏の世界になんて行けない。仲間を裏切る...君も仲間を裏切るのは嫌でしょ...?そういうことなんだよ。君とは、仲良くしたいと思ってる。』
手が滑って落とされたナイフ。その震える手で俺の顔を撫でる。
『君は...本当にいい子なんだね...!俺はそういうところが好きなんだ......!!わかったよ...今日のところは引いてあげる。』
俺の頬を撫でたあと、そう言って裏の世界へ戻っていった。

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気づくと、何処かのベッドに寝かされていた。ここは、ダーマの家だ。リビングではぺけに慰められているダーマがいた。そうか、さっきまでのは夢だったのか。あれは裏の俺と出会って何回目かの会話だった。あれ以来、会ってないな。次あった時は、情緒は安定しているだろうか。安定していることを俺は願う。そして俺はリビングに向かって歩いていった。

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ダーマと一緒にテレビを見ていた。テレビからは«運命は、神様が呼び寄せるのです。言わば、運命は神様なのです。»と悟を開いたような尼さんが言う。へぇ。と思ったのもつかの間。とある閃きが頭をよぎった。
「そうかっ!!そうなのかっ!!!」
ソファからガバッと立ち上がる。隣にいたダーマは特に驚いた顔もせず、平然とこちらを見ている。
「ちょっと、表の世界行ってくる!!」
そう言って家を飛び出した。

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「あぁっ!いたっ!俺の愛しのモトキっ!!」
俺が来たのは、モトキの場所。最近出来た新居でテレビを見ていた。
「久しぶりだねw」
「俺は分かったんだ!!運命は神様なんだよ!!」
自分が言いたい事をズラッと頭の中で並べて、一気に喋る。
「君との出会いは、そう!!!!まさに運命なんだ!!!!!その運命は神なんだから、君は俺の神ということだよっ!!!!!あぁ...!!俺の中の神は君だけなんだ......!!!これからは君が俺の信仰対象になるんだ...!!!」
なってくれるよね!?と後押しする。急に喋り出されて驚いているのか、固まってしまったモトキ。そういうところ、とても可愛い。君には俺の信仰対象になって欲しい。これは心からの願いだ。
「ちょっと落ち着いて、まとめて話すね?」
深呼吸をする。
「つまりは、君と俺は出会う運命、神ということ。さあ、俺の信仰対象になってくれる?」
少しわくわくしながら問う。うんと頷いてくれたら、これからどんなに楽しい人生が送れるだろうか…...!
「ありがとう。でも、やめておくよ。」
耳を疑った。え?ヤメテオク?何故そんなことを言うのかわからない。
「嘘だよね...?そんなこと...ないよね?なんでそんなこと言うの...?」
「そうやって言ってくれるのは嬉しいよ。」
気が遠のいて、フラフラと後に行ってしまう。そしてゴミ箱を倒し、壁に背中を打ち付けた。痛みはない。それよりも大きい衝撃が身体中を駆け巡っていた。どうしてそんなこと言うの...?俺はただ、君を信仰したかった、君に全てを捧げたかっただけなのに...!!驚きと怒りで身体に力が入らない。
「俺に反抗したのは、君が初めてだよ...wそういうところ、さすが、俺が全てを捧げたくなる人材に相応しいね......!!」
出直してこようと、ガクガクと震える情けない膝を動かす。そして、玄関まで来たとき、背後から不意に
「また...来てね」
と聞こえてきた。嗚呼、何故受け入れてくれなかったんだ。返事もせず、モトキの家を出た。

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