第7話

ンダホの日常
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2018/11/22 12:47
黒い手袋を外す。右手は何ともないが、左手を見て、溜息をこぼす。これは、俺の弱さの象徴だ、と。裏たちとの戦闘の末、ついてしまったこの傷は、ずっと消えずにこの左手に残っていた。この傷は、誰にも見せるまい。傷跡を見る度に、自分の無力さを感じてしまってどうしようもない。俺が弱いから、こんな傷跡が残ってしまったんだ。俺がもっと強ければ、みんなが怪我をせずに済んだんだ。なので日々鍛錬は怠らない。そうしないと、またみんなに迷惑をかけてしまうから。

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シルクに「予定があるから表の世界までついてこい!」と言われたので、しょうがなくついてきた。しばらく表の世界を歩いていると、「ンダホは此処から付いてくるなよ!」と言われてしまった。自分からついてこいとか言ったくせに。先に帰ってやろうと思い、来た道を踵を返して進んでいった。人目につかないように、路地裏を歩く。そこにはキラキラと輝く電飾や、提灯が。その提灯には『ラーメン屋』などの文字が書かれている。肉専門店はないのか。ちょっとショックだ。そんなようなことを思いながら歩いていると、1つの店から楽しそうな、嬉しそうな、笑い声が聞こえてきたのだ。楽しそうな声。俺は嫌いだ。それが笑い声だと、もっと嫌いだ。何故ならば、あいつの顔が浮かんできてしまうから。そうか。此処は表の世界か。あいつがいるかもしれない。出来るなら会いたくない。顔も見たくない。耳を塞ぎ、足早にその場を去る。色々な店を通り過ぎ、路地裏を出た。するとそこには、俺が会うことを恐れていたあの人物がいたのだ。表の世界の、俺。楽しそうに、表のメンバーと動画を撮っている。嫌だ。俺にあいつが楽しんでいるところを見せないでくれ。なんて神は残酷なんだ。と、また此処も耳を塞いで去った。あぁ、今日はなんて不運な日なのか。早く元の世界に帰って肉でも食べて機嫌を治そうじゃないか。

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