第2話

進展
27
2019/05/12 09:30
さようなら から始まった私たちの関係。最初は恥ずかしさから、想いを言葉にすることはできなかったけれど、廊下ですれ違ったとき、帰りの電車が同じだったとき、友人と喋っているとき、あなたはわたしの存在に気付くといつも恥ずかしながらも笑みを浮かべて小さくてを振ってくれました。

周りにいる人たちに決して気づかれることのない、わたしとあなただけの特別な空間が確かにそこにはありました。

静かに、そしてゆっくりと、何も見えない暗がりのなかで私たちは手探りに互いの距離を見つけた。時には近づき、時には離れ、少しずつ距離をつめていきました。

一学期の終わり。初夏の訪れを知らせるように、帰り道でセミたちの産声が聞こえた。陽炎のように揺れるアスファルト。その水平線の上にあなたの後ろ姿を見つけました。

一緒に帰りませんか。

初めて、あなたに向けた言葉。それは文字にして12文字。そして返ってきたあなたの言葉は二文字でした。

夕暮れの河川には私たち2人だけ。何も話さず無言でした。でも苦痛ではなかった。それは心地よい沈黙でした。夏の虫たちの音色、風に吹かれて靡く木々たちの声。時おり、頬を通り過ぎていく風の冷たさが気持ち良かった。

あなたの夏服姿。カッターシャツは汗で張り付き、陶器のような肌が薄らと見えた。

夏の空には夕闇がにわかに濃く迫っており、赤の中に、別の色合いの赤が混じりこんでいました。

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