第70話

Seventy
3,161
2022/10/16 21:00




ミナ
ミナ
なぁ...ほんまに、ホラー見るん?
あなた
...チケット、買っちゃったし......




気が付くと南の腕に引かれて着いた映画館。


そして約20分後に始まるチケットを買おうとした時。


その時にしっかり私が画面を確認しとけば、題名を確認しとけば良かったんだけど...


未だに脳内を反芻している"2人でいたい"の一言のせいか、何もかもを焦ってしまって。


座る席も南に聞かずにど真ん中の少し後ろ。サウンドが一番良い場所。


チケットを買って、南に片方を差し出して。


そこで突っ込まれてようやく気付いた、ホラー映画。


今は座席に座って、ついさっき買ったポップコーンを口に放り投げてあの誤ちから意識を逸らそうと奮闘してる。




あなた
いや、あの、ほんまに...すみません
ミナ
ミナ
べ、別にええんやけどな?ただ...ちょっと怖い...やん?笑
あなた
辞めとく...?今なら出ても間に合うと思うし、ほんまにあかんかったら...
ミナ
ミナ
...いや、見てこ。意外と面白そうなの、見れそうやし
あなた
...何?どういうこと?
ミナ
ミナ
いや?別に。ほら、始まるからちゃんと前向いて
あなた
...とか言いながら体斜めになってますけど
ミナ
ミナ
...怖いんやもん。仕方ないやろ、どっかの誰かさんが間違えたから
あなた
私のせいじゃ......すみません




何かと今日は、南にいいようにされている気がする。


先の着ぐるみの件と言い、若干衝撃発言と言い...


私が意識しすぎ?でも普通ただのメンバーに二人でいたいなんて言葉のチョイスおかしくない?


...こんなんじゃ映画に集中なんて出来そうもないな


映画本編の前にある、見慣れた注意喚起と広告。


いつも映画を見る時はこの時のワクワク感も込みで楽しんでたけど、正直今はそんな気分じゃない。


チラ見程度に隣に目配せしてみれば、タイミングが悪かったのか向こうも私の方をチラ見していたようで。


目が合って反射的に逸らしてしまうと、突然肘掛けに置いていた手に彼女の指先が触れて。


向き直してみれば、また憎たらしいほど綺麗に笑う。




...確信犯やん、こんなの





















映画も中盤。ホラーだホラーだと騒ぎ立てた割にあまり怖くもなく面白くもなく。


退屈した表情を隠そうともせずにポップコーンを貪っている。



...別にこれは文句やないんやけどさ。

在り来りすぎん?曲がり角からドーンとか天井からドーンとか下からドーンとか。

何?そんな雑な台本でも映画化できるもんなん?笑

心霊現象的なの一切無いし、これならお化け屋敷でもできるやろ。



一度期待はずれだと思ってしまうと、どうしても面白いと思えなくて。


結構序盤の方から、今の今まで肩をピクリとも動かすことなく呑気にジュースをすすって。


少しずつ睡魔というある意味お化けが襲いかかってきた所を、この映画が始まって初めての予想外の展開に叩き起された。




あなた
......!?
ミナ
ミナ
あなた...こわい......
あなた
っ......//








暗い映画館。スクリーンから反射する光が、わたしの瞑りかけた目を刺激して。


映画が始まってから一度も離れなかった指先が、突然私の手を包み込んで。


何事かと思って包み込んだ手の持ち主に向き直すと、ほぼ半泣きのその目で必至に恐怖を訴えている。


...いや反則やろ。あかんやんそんなん。


普通に考えて急に手握られるのだってびっくりするのに、そんな泣き掛けの目向けられたらどうしたらええん私は。


ただでさえ普段から大きいその目に少しの涙を浮かべる彼女は、次第に握る力を強めてくる。


眠気も何も吹っ飛んでしまった。こんな事されたら怖いとか眠いとかより、可愛いの方が勝っちゃうんだから。


すぐ隣からか細い声で手を握られて今もずっと握られてる。


もしやこのまま終わりまで握り続けてるつもりじゃないやろな、そんなんやったら私の方が心臓持たんねんけど?


ストーリーが進むに連れてどんどん握る力が強くなる。


なんならちょっと痛いと思うくらいまで強いのに、それをやめてと言えない私もいる。




はぁ......ほんと、どうしろって言うんだよ


























ミナ
ミナ
もうっ、ほんまにっ、嫌い!!
あなた
何、何が?
ミナ
ミナ
あんな怖いとか聞いてへん!
あなた
そんなん私も知らんかったし笑
ミナ
ミナ
ぅ〜...今日寝れんくなったらどうしてくれるん、ほんまに...
あなた
...そんな怖かった?
ミナ
ミナ
...逆になんでそんな普通なん、感情壊れてるやろ絶対
あなた
そこまで言わんでも...笑




約2時間のホラー映画を見終わって、ほんの少し暗くなった外を眺めながら私達の家へと車を走らせる。


助手席に座っている人はシアターを出てからずっとこんな調子で。


嫌いとかアホとか言ってるくせに私の左手をずっと握って離してくれない。


私も南も、元々あんまり手を握ったりスキンシップはしない方だったから最初は結構緊張というか、ドキドキしてたんだけど。


ここまで長く繋いでると逆にちょっと暖かいその手が心地よく感じてきた。



ミナ
ミナ
今日寝れんかったらあなたのせいやからな
あなた
流石に寝れるやろ笑
ミナ
ミナ
それくらい怖かったの!あなたは怖くないかもしれんけどさ…
あなた
大丈夫だよ、寝れんかったらジヒョにでも一緒に寝てって頼めば
ミナ
ミナ
それは…ちょっと恥ずかしいやん
あなた
何が?
ミナ
ミナ
…ホラー見て寝れないなんて子供っぽいやろ
あなた
そんなん気にせんでも笑




意外と可愛らしいことを言い出した南を宥めながら運転していると、ようやく見えてきた私達の宿舎。


その外形を見て安心したのか、一息ため息をついた可愛い人。


久しぶりのお出かけで色々感情の変化が起きすぎたけど、初めての南とのショッピングはかなり楽しかった。




これでまたしばらくは頑張れそう…かな?




隣の人に今日の感謝と謝罪を改めて伝えて。




少し気が抜けたのかヘニャヘニャになった笑顔を見せた南と共に玄関へと歩いた。






























プリ小説オーディオドラマ