第37話
Thirty-six
突如意識を取り戻す。
ゆっくり目蓋を開いたとか、そういう訳でもなくて、目を開いた途端に全開で。
はっきりした視界とは裏腹に回転の遅い頭。
少しづつ回り始めた頭が一番に覚えた違和感。
首から下の全身に、なんだか重力を感じて。重い訳ではないけど、なんだか重い。
しばしばする訳でもなく、ぼやけるわけでもなくはっきりと見えるその視界の端には、愛らしい顔がひとつ映った。
...あぁ、サナか。
デビュー前のプチ騒動から、約2年が過ぎた。
文字で見れば、結構時間が経ったんだなぁとは思うけれど、体感はまだ2年も経っていない気分。
私だけなのかもしれないけれど、あまりに忙しい2年だった気がする。
つい先日、4thミニアルバム"SIGNAL"をリリースし、これで実質5回、デビューからリリースをしたことになる。
まだ2年という短い年月。2ndミニアルバム"PAGE TWO"で大ブレイクしてからかなり活動が増えた。
Kpop史の中ではまだまだ若手新人のはずなのに、物凄く忙しい。
ただでさえ忙しくて疲労が溜まっているのに、+ソロ活動なんてアホらしくなってくる。
先月のカムバの後、直後にソロでもカムバ。
一日の番組で二度ステージに立ち、私の身体はより絞られた気がする。
そして今週はほんっ......とうに珍しいことに一週間の休暇を頂いた。
そんな夢のような一週間の初日の朝に言われたのが、これ。
正直寝かせてくれ...と思うが、ここで断って後からぶつくさ言われるのもめんどくさいため、渋々縦に頷いて。
気付けば既に準備完了しているサナの隣で未だ髪の毛を爆発させたままの私。
そんな私を見てどうしてそうなったのか、"可愛い"と一言呟いてから私の準備をほとんどしてくれた。
髪のセットも、服のコーディネートも、今日のプランも、全てが完璧に決められたまま家を出る。
ジヒョはかなり心配してくれたけど...まぁ、交流は積極的にしないと誤解されやすいってこの一年身に染みて分かったから。
多少は仕事の範疇だと考えて、頑張ることにした。
そんなことを言ったサナから頂く頬へのぽっぽを皮切りに、会話は中断し車内に響くのはクラシックだけ。
まぁご存知の通りこの子はスキンシップが激しいので...別にそこまで気にはしてないんやけど。
たまにやりすぎなんちゃうかなぁって思うんよな〜...
頬へのぽっぽなんて、他のメンバーは誕生日以外しないし、なんならサナも他のメンバーには誕生日以外しない。
その割に私には結構な頻度でしてくるからちょっと勘違いしてしまう時もある。
まぁ、結局ただの愛情表現と言われてしまえばそれで終わりなんやけどな
私と二人きりになると精神年齢が下がるのかびっくりするほど楽しそう。何をしてても笑顔だし、何をさせても楽しそうに笑う。
それはサナに限った話じゃなくて、ミナやモモもそう。日本人メンバーは心細かったのか今までの寂しさを埋めるようにガンガン関西弁を使っては色々と頼んでくれたりもする。
流石に私の時間が無さすぎる時は遠慮してくれるけど、撮影終わり一緒にコンビニ行こ!とか短い時間を確保してくれる。
まぁ...そういう、寄り道程度の時間で済ませてくれるのは大概ミナだけやけど
サナとモモに関してはがっつり休日返上でお誘いが来るから、ぶっちゃけ憂鬱な時もある。笑
そんなことを思いながら車を走らせていると、隣の人はいつの間にか睡眠中。そして私の携帯が小さく震え始めた。
路肩に一時停止をして、その電話の相手を確認すると私の中の仕事センサーが反応。
どうやら何か新しい仕事でも持ってきたみたいで、小さく震える液晶に映る"ジニョン"の四文字が嬉しそうに見えてくる。
休日まで仕事の話とか...あいつ休ませる気完全にないんちゃう?