第73話

Seventy-three
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2022/11/20 21:00




結局、なんだったんやろ......




あの後、しばらく私の部屋で沈黙を貫き通した寝起きの南さん。


何か言いたげにしている南と何度も目が合ったのに、その度息を飲んで下を向いて、結局何も言うことは無かった。


ちゃんと話を聞いて、解決してあげたい。でも今は時間が無い。


ただでさえ約半年間連絡取れなかった咲良に、ほぼ一年ぶりに会うのに遅刻しましたなんて情けない事言えない。



"帰ってきたらちゃんと話しよう?"



そう言うと、俯いたまま黙っている南は小さく頷いて自分の部屋に戻って行った。


正直かなり気がかり。玄関を離れる時もなんだか気になってしまって、後ろ髪を引かれる思いで無理矢理我が愛車に乗り込んだ次第。


信号待ちしている時も、車を走らせてる最中も、ずっとあの言いたいけど言えない、みたいな顔が脳裏に浮かんで。



今からでも、帰った方が...でも咲良が......あ〜、えぇ...
























咲良
咲良
...さっきから何そわそわしてんの?
あなた
...別に、そんなつもりありませんが
咲良
咲良
嘘つくの下手だって自覚した方がいいよ。
あなた
んなっ...




結局帰ることも出来ず、大人しく待ち合わせ場所に訪れた咲良と共に買い物中。


美容大国とも呼ばれる韓国の化粧品が見たい!と何十件ものお店を回り、ようやくひと段落ついて今は休憩所にて休憩中。


それなりに人がいるからか、帽子を深く被っている私達の存在は周りに知られていないようで。


お互いの表情はあまり見えていないはずなのに、私が南のことを気にしている様子が何故かバレてしまった。




咲良
咲良
予定あるならあるで断ればよかったのに
あなた
予定があるって訳じゃないんやけど...
咲良
咲良
だけど?
あなた
なんか、み...メンバー、の1人が、様子おかしかった
咲良
咲良
...あぁ、もしかして南さん?
あなた
は?えなんで
咲良
咲良
いや、なんとなく。
あなた
...行かないでって言われた。行くなら私も連れてけって
咲良
咲良
...なんで?
あなた
それが分からんから悩んどるやん?
咲良
咲良
ふ〜ん...それでも来てくれたんだ?笑
あなた
うわ、その顔むかつくわ




なんとなく、以前よりも距離が近くなったように感じる咲良と向かい合って、そんなことを話す。


当然南のことは気がかりだけど、それに気を取られてこっちを蔑ろにしたら楽しみにしてくれた咲良に申し訳ない。



と思ってせっかく、せっかくこうやってちゃんと話したのにさぁ

そんなニヤニヤされたら話さんかったらよかったって思っちゃうやん

何がそんなに嬉しいのかも分からんからむしろこっちが怖いんやけど?




咲良
咲良
とりあえず、さ
あなた
ん?
咲良
咲良
私は相手が南さんだからって、譲る気ないし。あなたも考え過ぎない方がいいよ?
あなた
...譲るって、何を?
咲良
咲良
そりゃ...なんでしょうね
あなた
まぁた...それ!それ咲良の悪い癖やからな!!
咲良
咲良
なんのことだか分かりませ〜ん笑




譲るとか譲らないとか、そんな話一切していなかったのに。


突然身を乗り出してきた咲良は、私の額を軽く小突いて考え過ぎるなよと一言。


考えすぎるなと言われても大事なメンバーがあんな状態じゃ嫌でも心配になる。かと言って宮脇咲良という人間は女々しいのが嫌い。


無理矢理私に購入した荷物を押し付けると、次の場所行くよ!と私の腕を鷲掴みしてすたすたと歩き始める。



...まぁ、こういう所が咲良のいい所なんやけれども。笑



























その後、しばらくして。


私達はデパート内を隈無く散策して、2倍くらいに増えた袋を両脇に抱えて帰路に着いた。


随分ご満悦な顔をした咲良さんを送り、荷物運びとして扱き使われて、餞別?として1つのマグカップを頂き。


またよろしくね?と地獄のような笑みを浮かべた咲良と別れて、現在いるここは我が家の玄関。


そこまで遅くなった訳でもないし、心配をかけた訳でもないはずなのに、どうしてか私に抱きついたまま離れない人が一人。


何も言わないし、何もしない。かと言って靴を脱ごうと屈む素振りを見せると力を込められ何も出来ず終い。



...え、私なんかしたっけ




ミナ
ミナ
...おかえり
あなた
あ、うん...ただいま




しばらく黙り込んでいた私の胴体の人は、少し不貞腐れたような声を出してそう言った。


怒ってるのか拗ねてるのか、よく分からないような声。


おかえりというくせにその声は私の帰宅を歓迎してはくれないようで、私の胴体に巻き付いたままの人は顔を見せてすらくれない。


何かやらかした覚えもないし、少しずつお腹が苦しくなってくるし。


困惑と力強いその腕から抜け出せないまま、数分が過ぎた。




ミナ
ミナ
どうだった?今日。久しぶりに会えたんやろ?
あなた
まぁ、楽しかったけど...どうしたの?
ミナ
ミナ
...別に。何でも。
あなた
......え?何?終わり?
ミナ
ミナ
もう皆ご飯食べたしお風呂も入ったから。あなたも早く休んでな?
あなた
ちょ...えぇ......?




一体何があったのか、一連の流れで一度も目が合わない。


ようやく顔を上げて、少し苦しいくらいの力から開放されてしっかり目を見れるチャンスだったのに。


私の側から逃げるような動きで、早口のAIのように機械的に言い放った後目を合わせることなく目の前に続く廊下を小走りで去って行った。


なんで?が渋滞中。なんでわざわざ出迎えてくれたのかも、なんでそんな避けられるのかも。


だって朝はまだそれなりに普通だったじゃん。そりゃちょっとごねられたりはしたけどさ。




...私、何にもしてないよね?





















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