当然のように着メロを響かせながら今にも出て欲しそうなその着信。
相手はきっと言わずとも分かるあの男。
無茶振りしかしない人間。分かる?分かるよねあの人だよあの人。
仕事じゃないって言ったのはどの口だおい
相談?打診?結局仕事の話やないかいデコピンしてやろうか
まぁ、正直なんとなく察してはいた。こんな朝早くにかかってくるなら紛れもなく仕事だろうなと。
たださぁ、誰がさぁ、そんなでかい仕事だと思う訳?
よくよく考えてみて欲しいんだけど。
アホなスケジュールを耐え忍んでようやく休みを手に入れた人間に言う言葉じゃないよね。
非人道的行為過ぎない?精神的暴力にも程があると思うんだけど。何?
まじでどうかと思うそういうの。
伝えるタイミングも提案する内容も休ませようと思ってる人間のやることじゃない。
……ま、いいわ。どうせ来年の話だしな、今考えたって仕方ないし。
最近ほんの少しジニョンさんの無茶振りに慣れてきた私は、メンタルの保ち方も学びつつある。
どうせパフォーマンスする側の私はそんな難しいこと考えなくてもいいと悟った。
事務的なことはマネオンニがほとんどやってくれてるし、私はその話を聞いて死ぬほど練習するだけだし。
...今はとりあえず、買い物を楽しむとするかな
南と共に、近場のデパートへと出向いて。
しばらくどこかのお店に入る訳でもなく、南の"雰囲気から楽しみたい"というちょっとよく分からない要望を取り入れて。
ぷらぷらと歩き回って、ようやく入った洋服屋さん。
洋服屋と言ったら当然服を見ることから始まるはずなのに。
服を見る間もなく無理矢理試着室に押し込められたかと思ったら、南から手渡された洋服。
...いや、着ぐるみ。
正直手渡された時点で嫌な予感はしてたけど、まさかこんなギャグに走ったようなものを南が選んでくるとは思わなかった。
最近はあんまりプライベートで出掛けたりできなくて、久しぶりのショッピングでちょっとウキウキしてたのに。
まさかこんなものを着せられるとは...危機察知能力が下がったのか?
そんなことを思いながら、閉じたカーテンの向こうで待つ南と次のお店の話をして。
どうやらついさっき、ぷらぷらしていた時に気になるアクセを見つけたからと言うことらしい。
南が気になるほどのアクセサリーか...
意外と可愛らしいのだったりして。
ハート型とか持ってきたらにやにやしちゃうかも笑
初めてのショッピング with 南。
案外落ち着いた買い物になるのかと思った私の想像を上回る程のハイテンションで、意外といろんな所を見て回ってる。
前に買うものは決めてから行くみたいなこと言ってたのに、今日に限ってはそうでもないらしい。
久しぶりの買い物、かつ初めての南とのお出かけ。
柄にもなくワクワクしていた私は、南が行きたいと言っていた場所以外のお店に南を引き摺り回して。
私と南の両手には割と大きい紙袋が二つ三つある。
服はもちろん、雑貨やアクセサリー、メンバーへのお土産として幾つかのお菓子。
お互い結構買ったよね〜なんて言いながら、フードコートにて休憩中。
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たった一言の、思いがけない発言の凄まじい破壊力に私の頭は少しパニックに陥った。
元々インドアな南の事だし、私が連れ回しただけでも疲れたって言うかと思ったのに。
...二人でいたいなんて、そんな言い方ちょっとずるない?
そんな殺し文句ヨヌオンニにすら言われたことない...
待って、もしかして顔赤くなってるとかないよななんか熱いんだけど。
南が立ち上がっても、立ち上がれない私。
私の頭は立ち上がるより先に衝撃発言の処理に手間取っている。
突然の勘違いしてしまいそうなその発言に戸惑っていると、私を見下ろしてどしたん、なんてちょっと笑って。
......おいおい待て待て待て。何今の、きゅんみたいな。
まさかな。まーさか、そんな、メンバーに......
まさか、ね...そんな訳...そ〜んな訳無いやろ!な!!!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。