第40話

Thirty-nine
3,887
2022/01/23 11:43
















ガチャッ




バキッ




モモ
モモ
うわっ......!








次に目を覚ましたのは、きっと私の仕事道具で遊んでいた人間の控えめな叫び声と、何かが落ちて壊れる音。




こんな狭い部屋に突然大きな音が響き渡るものだから、嫌でも寝ていた目が覚めてしまって。




なんだよもう...なんて、呑気に身体を起こせば視界に飛び込む悲惨な仕事道具。







......は?何...何が起き......は?








あなた
....なっ、なにしてるん!?
モモ
モモ
やっ、ごめ...お、落とすつもりはさらさらなくて...
あなた
そりゃわざと落とすやつなんておらんやろ!
あなた
ちょ...これ来週からも使うんやで!?
モモ
モモ
...ご、ごめんな?うち新しいの買ってくるで...
あなた
その辺じゃ買えへんねんで?!これ25万!オーダーメイド!
モモ
モモ
う、え...ご、ごめ.....っ...
あなた
な、なんで泣くん...








泣きたいのはこっちやわ...








視界に入った仕事道具は、角が欠けて鍵盤は飛び散り急いで抱え上げて鍵盤を付け直しても音はならない。








たった1mにも満たないこの高低差で、どうしたらここまで壊せるん......?




これデビュー前にマネオンニが買ってくれたのに...どうしてくれんねんこの有様








自分にしても珍しく、受け入れ難いその現実を前に声を荒らげてしまって。




その声を聞き付けたメンバー達が、様子を見にドアから部屋を覗いてる。




泣きつつあるモモと、床に転がる悲惨な仕事道具を交互に見ては何かを察したよう。




この先の展開がどうなるか、見守るという判断に至ったらしい。




あなた
......っはぁ...仕方ないな。目離した私も悪いしな
モモ
モモ
ほ、ほんまにごめ.....
あなた
ええよ、悪気はなかったんやろ?仕方ないて
あなた
とりあえず怪我すると危ないで、ちょっと部屋から出とき。ついでにそのドアの前にいるのも追っ払っといて
モモ
モモ
え?...あ...ど、どこから見てたん...?
ツウィ
ツウィ
やっ...あなたオンニの声が聞こえてからですけど......だ、大丈夫ですか...?
あなた
大丈夫。片付けるのにそんな見られたら変な気分だからちょっと一人にしといて?
ジヒョ
ジヒョ
分かった...あんまり無理しないでね?
あなた
...うん




心配そうに顔を覗かせたジヒョとツウィ。




二人がモモを連れ出してくれて、部屋の扉が閉まると同時に湧き上がってくる怒り。








...っほんまどうしてくれんねん...オーダーメイドやし一ヶ月二ヶ月は余裕でかかるやん




来週からどうしたらええん...事務所の作業室...?




あそこの設備意味分からんから使いたくなかったんやけど...いや、もうこうなった以上はあそこ使うしかないな




...っあ〜ほんま...ほんまなんでこう上手くいかんの...








彼女が落とした行為にはもちろん、その後に申し訳なさそうにする彼女に怒鳴りつけた私に怒りが抑えられそうにない。








いくら大事なものを壊されたからって悪気がない人に怒鳴りつけるもんやないやろ...




しかも値段まで引き合いに出すとか...ガキすぎひん?芸能生活何年目やねん自分




...あ〜もうなんか全部どうでもいい。片付けも放り出したらあかんかな









散らばった鍵盤を拾い集めるのも、欠けた破片を拾い集めるのも全てがめんどくさくて、だるい。




本体を開いてみても、中身がバッキバキだから修理に出さなきゃ使えない。




修理に出せば戻ってくるのは早くても三週間、約一ヶ月後。




新品をオーダーメイドしたとしても早くて二ヶ月。




オーダーメイドだって、安くはない。余程の大金持ちでもなければ25万をぽんと出すことはできない。




結局事務所の作業室を借りる他方法はなく、かと言ってあの作業室もいつでも空いてる訳では無い。








...しばらくは作詞に専念して、時間見つけて作業室借りるしかないな...最悪スタジオ借りるとかしてどうにかせなあかんわ...




とりあえず今日は...もうええや、寝よ








あんなに嬉しかった一週間の休暇。




一日目は休暇とは?と問いかけたくなる程のファン対応に追われて、二日目は仕事をするための大事なものが失われ...




来週には既に作詞の共同制作のスタッフさんとの打ち合わせ。作曲した楽曲と合わせて考えてみましょうということだった。












...作曲したの全部こん中に保存してそのままやん。




ほんまなにしてんバックアップくらいしっかり取れへんの...?












過去の自分に対して落胆して。片付けも何も全てが面倒くさくなった私はベッドへ飛び込んで。




そこへ追い打ちをかけるようにメールが届く。












"作曲の調子、どうですか?いつもあなたさんの曲は大人気なので楽しみにしてますね^^"












...タイミング悪すぎやろ












送られてきたメールの語尾に付いたなんの変哲もない絵文字が、無性にイラついて。




脳の血管がはち切れんばかりに波打っているのに我慢がならなかったのか、自分で気付かないうちに携帯を壁に向かってぶん投げて。




ガンッ!という音が二回響いても、まだ脈打つ血管は止まらない。




昔から、物に当たってはいけないなんで当然なことを言われ育ってきたからか、少しの罪悪感が芽生えて。




それでも、自分で投げた携帯を拾う気力すらも起きず掛け布団を抱き寄せてまた瞼を閉じた。




誰にもバレないように、怒りを抑え込むように。壁側に体を向けて掛け布団に顔を押し付けて、静かに叫んで。




ひとしきり叫んでも収まらない怒りに1周回って呆れてしまう。








なんでこんな上手くいかへんのやろ...やっぱり、無理やん、グループとか




そもそもがおかしいねん、ずっとソロやってたのがグループなんて出来るわけないやろ




仕事多すぎやし。断れないって向こうも分かってるから余計にタチ悪いわ








掛け布団から顔を出し、真っ白な天井を見れば見えてくるのはついさっきの泣き掛けのモモ。




私が言ったほぼ暴言に近い言葉と、混乱して上手く話せないももの一言一言が、頭に木霊して。








...私は、ほんとにダメやな





















































プリ小説オーディオドラマ