前の話
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──大正時代
楠ノ城家の本家という名家であり、名誉な血筋に生まれた四人の子供。
楠ノ城 裕典と和都子の間に身ごもった四人の子のうち末っ子であり、長女である少女。
才色兼備で“楠ノ城家の宮住能姫”と呼ばれた。
名前は──
楠ノ城 和結(くすのき なゆ)
楠ノ城家の長女であるのだが、彼女の手元、彼女の周りを囲んでいるのは山積みにされた洗濯物。
少女の頬を引っ張る、長男であり楠ノ城家次期当主の楠ノ城 裕政(ひろまさ)。
和結は抵抗しようと裕政の腕を掴むが、彼女の力では到底かなわなかった。
“宮住能姫(くすのき)”
宮に住む能ある姫で宮住能姫。
和結にとってそれは、嫌みにしか聞こえない。
和結は階段を駆け上がり、南向きの一番明るい角部屋の自室へと急ぐように入った。
優しい顔で取り残された洗濯物を手際よく畳む楠ノ城家のお手伝いさん。
多恵子さん(たえこさん)は穏やかな表情で裕政に言う。
裕政は冷たく、俯きながら多恵子さんの言葉を跳ね返した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。