第4話

3 探り
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2022/06/12 01:16





探偵社の一同が依頼人と話している間、私は近くの路地裏で暇を潰していた。本当は盗聴器を仕掛けても良かったけど、万が一太宰に見付けられたらまずい。
…にしても、太宰が真逆まさか探偵社に加入していた何て…。ポートマフィアの元歴代最年少幹部がどんな血の迷いで陽の当たる世界に行こうと思った?人生何が起こるか判らないって聞いた事あるけど、本当だったのかな。
あ、ていうか、ドス君に先刻さっきの事報告してなかった。
無線通信機を取り出して急いでドス君と繋げる。
フョードル・ドストエフスキー
『どうしました?あなた。市中で散歩をしていた筈では?』
あなた
うん、それでと或る喫茶店に入ったんだけど…
あなた
フョードル・ドストエフスキー
『……あなた?』
どうしよう、ドス君の声を聴いたら急に安心して言葉に詰まる。
フョードル・ドストエフスキー
『…少しずつで構いません、教えて頂けませんか?』
あなた
…うん
あなた
喫茶店に入ったら、偶然、武装探偵社と出くわして…会話を盗み聞こうと思ったの
足下に転がる小石を見詰めて、路地裏の壁に寄り掛かりながら、無線機の向こう側に居るドス君に話す。
あなた
…探偵社の一隅に……太宰が、居た…
心做しか、声が震えていた気がした。あんな奴、もう二度と逢いたくなかったのに…。
フョードル・ドストエフスキー
『…そうですか』
無線機を通して聴こえるドス君の声は、何とも感情が読み取りづらい声色だった。いや、若しかしたら本当に何も思っていないのかもしれないけれど。
フョードル・ドストエフスキー
『…これからどうする心算つもりで?』
あなた
探偵社に依頼人が来たから、仕事現場を尾行しようと思ってる
何か情報が入手出来るかもしれないから
フョードル・ドストエフスキー
成程なるほど、ではそのまま尾行を続けて下さい』
あなた
判った
フョードル・ドストエフスキー
『あなた』
あなた
ん?
フョードル・ドストエフスキー
『無茶をしてはいけませんよ』
あなた
フョードル・ドストエフスキー
『あなた…?』
あなた
…うん、気を付ける
……何も思っていない訳じゃあなかったかも。

ふと、探偵社のビルの入口から数名の人物が出て来た。…そろそろかな。
あなた
じゃあ、行って来るね
フョードル・ドストエフスキー
『はい、お気を付けて』
ドス君との無線機通信を切る。

路地裏から出て、探偵社数名を見る。仕事に出たのは先刻さっき喫茶店に居た、敦君、谷崎兄妹だった。依頼人であろう女の人も一緒だ。太宰が同行していないならこちらとしては好都合。気取られる事もない。

よし、行こう。と気合を入れて尾行を開始する。仕事に出る前に何かあったのか、少し項垂れている敦君。情報入手の為にも、或程度あるていど会話を聴きたい。盗聴器を仕掛けるか。敦君達の行く道を先回りして、すれ違う形になる。
大抵の尾行人ならすれ違うタイミングでわざとぶつかり、ポケットやら何やらに仕掛けるだろうが、私にそんな行為は不要だ。ほんの少しすれ違えば、それで十分__。
















敦side





探偵社の初仕事に出た僕。出掛ける前、太宰さんに「芥川」と云う男の話で脅かされ、初仕事にして早くも折れそうになる。

ふと、誰かとすれ違った。後ろを振り返って見る。何故振り返ったのかは判らない。本能的にその人を見やっていた。すると、すれ違った人も振り返って僕を見た。
あなた
何か…?
すれ違った人は、女の子だった。正直な感想で、凄く綺麗な人だな、と思った。歳は、僕より少し下だろうか。あまりにも大人っぽくて、歳上の人と話している気分になる程だ。
中島 敦
あ、いえ、綺麗な方だと思って…失礼しました
正直に思ったままを話すと、女の子は可愛らしく微笑んだ。
あなた
…有難う御座います
あなた
では
女の子は礼儀正しくお辞儀をして行って仕舞った。
…何だろう、この違和感は。先刻さっきの女の子の笑顔、笑っていた筈なのに、笑っていなかった気がする。
中島 敦
何だったんだ…?
樋口 一葉
着きました
中島 敦





























あなたside






…正直、舐めていたかもしれない。太宰が同行していないから、多少私が不自然だと思う行動を取っても気が付かれる事はないと思っていた。喫茶店で聞いた会話からして、敦君は新人探偵社員。…かなり屈辱。
樋口 一葉
『__着きました。』
仕掛けた盗聴器を繋ぐ通信機から音声が聴こえてきた。幸い、盗聴器は気付かれていない様。すれ違った時は振り向いたのに、盗聴器には気が付かないって…鋭いのか鈍いのか…。
私の前方で歩を進めていた敦君達は、薄暗い袋小路に入っていった。
















********あとがき********




どうも作者です。
漸くひぐちゃん出せた…。と思ったらひぐちゃんは「着きました」としか言えませんでした。次回はちゃんと色んな台詞あります。

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