袋小路で、白虎の少年_敦君と芥君との戦闘を見届けた後、私は暫く『死の家の鼠』の屋敷に身を潜めていた。あまり探りを入れてしまうと、探偵社連中に気取られる可能性が高くなるからだ。その間の毎日は兎に角ドス君が制作した作戦資料を読み込み、自分はどんな行動をしてどんな働きをすれば良いのか、他に作戦に参加する人達はどんな事をするのか、行動に当たるリスク等を徹底的に脳に叩き込んでいた。
何時の間にか、私の自室の入口にイワンが立っていた。
確かに…躰に支障をきたしてしまっては作戦処の話ではなくなる。どうせなら外出をして作戦の下調べをするのも悪くないかも知れない。
私はイワンに、呉々も怪我をしないように、追手が現れたら殺さずに気絶をさせて屋敷に連れて来るようにetc.....と云うのを過保護と呼べる位念押しされて久し振りの外気に触れた。
うん、そこまでは良かった。そこまでは良かったのに………
外に出てから早速探偵社やポートマフィアの動きを軽く調べたけど、予想以上に作戦上の出来事が進み過ぎてて流石の私も驚いた。
太宰なんて、もう敦君に七十億という巨額の懸賞金を懸けた主を突き止めようとしてるし。悔しいけど、流石だ。ドス君が作った資料通りなら、今頃、太宰はポートマフィアの地下監禁室に捕らえられて処刑待ちの筈。
だとしたら、正直嬉しい。私自身、彼の人の事は今でも好きだ。話すことが出来なくても、顔を見ることが出来るのなら十分。
私は早速行動に出た。
一方其の頃、死の家の鼠の屋敷では__
イワンが話しかける相手は、無論、魔人フョードル・ドストエフスキーだ。
フョードルは回転式の椅子を回し、イワンの方に躰を向けると、真意の読めない笑みを浮かべた。
あなたは気が付くことが出来なかったが、「ドス君の作った資料通り」__この言葉が今の凡てなのだ。
人間は時々、日常に染み込み過ぎたものが多少変化しても、例えば、通学路や何時も通る道にある信号機の青と赤の洋燈の位置が反対になっても気付く者が多くない。あなたはフョードルが考え、制作した資料と云う日常に染み込み過ぎたものから違和感という変化に気が付けなかったのだ。そう、あなたの予想以上に事が進んでいるのは、フョードルが『そうなるように』仕組んだからだ。そして、あなたにイワンがこのタイミングで外出するよう促したのもフョードルの命令だ。
では、何故外出する為に促すのを命令したのか。それは、あなたが思った様に、『彼の人』にあなたが逢えるからだ。
魔人は今日も、不敵に笑うのだった。
ここで問題です。私は今何処に居るでしょう。
ヒントはポートマフィアの地下監禁室。あ、答え云っちゃった。
うん、どこぞの道化師が出てきた。こんな茶番は如何でも善い。それに、正確に云えば私は地下監禁室に繋がる直ぐ近くの地下階段を降りている。一切の気配を消して、遂に地下監禁室に辿り着いた。
監禁室の中からは、太宰ともう一人の怒鳴り声にも似た様な声が聞こえてくる。予想通りだ。心做しか少しワクワクしている自分を落ち着かせて、部屋の中を覗き込む。
監禁室の中央にある枷に繋がれ、身動きの取れないようにされている太宰。余裕こいてるのが鼻につくけど、少し好い気味。
そしてもう一人__
そう、この人が私の逢いたかった人。
現ポートマフィアの五大幹部の一人、
組織の最大戦力とも云われる中原中也君だ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。