キャリーケースの中を慌ただしく漁る。
先程のゲームではまふまふさん、楽しんでくれて良かった。
よく知らない人だけど面白そうな人。
「ふふふ。」
さっきの勝負を思い出してつい、笑ってしまう。
玄関側から兄の呼ぶ声がする。
廊下を走り、急いで玄関へと向かう。
へぇ。ラーメン好きなんだぁ。
今、どんな状態かと言うとまふまふさんとお兄ちゃんが前を歩き、私が後ろを着いていくという状態だ。
私が話しかけると2人とも顔をこっちに向けて返してくれるから、優しいものだ。
性格までイケメンか。
10分ぐらい歩き小さな路地を通っていくと、ラーメン屋ののれんが掛かった小さな店を見つけた。
ガラガラガラガラガラ
お兄ちゃんが戸を開けると1人の店主が陽気に「いらっしゃい」っと言ってきた。
席に着いたあとも私たちは店主とお話をしながら料理が来るのを待っていた。
「はい。お待ちどうさん。」
そう言って店主が出してきたのは湯気の出てる美味しそうなチャーハンと、ラーメン2つ。
美味しそう……。
チャーハンの円の形を崩すように1口分をすくう。
顔を近づけると更に熱そうに感じ、フーフーと少し冷ましてから口に含んだ。
パクッ
私が感想を述べるとまふまふさんが間髪入れずに同意してきた。
すると、店主が「兄ちゃん、いつもありがとな!」と、笑顔で感謝の言葉を述べる。
そんなに、行っているのか……と思いながらチャーハンを完食する。
まふまふさんも最後の一口を食べ終わり、スープを飲む段階に入っていた。
お兄ちゃんも、あと少しの麺を食べれば残りはスープのみの状態だった。
2人がごくごくとスープを飲み干す。
美味しそうだな。
次はラーメンを食べよう!
2人が完食するのを見計らい、私はお会計を済ませる。
私がお札を2枚取り出し、店主に渡そうとするとお兄ちゃん達が止めてきた。
「お願いします!」と、店主に無理矢理お札を渡す。
「はい。お釣り。」と、返され
「ありがとうございます。」と返事をする。
ガラガラガラガラガラ
納得させていないものの、そのまま強行手段で店を出た。
内心仕事をやりたくないという気分なため、苦笑いをする。
……ずるい。
お兄ちゃんはこういう時、かっこいい。
だって、だって……
私の初恋だったもん。
「兄妹じゃなければいいなぁ。」
って、ずっと思ってた。
そうじゃなければ告白できたでたのに。
いつからかお兄ちゃんを好きになることを諦め、ごく普通の兄妹として接することを心がけていたため、今では自然なまでに振る舞うことが出来ている。
私はいつも通りの笑顔をする。
お兄ちゃんの家に帰っていくまふまふさんに手を振る。
まふまふさんが路地を出たところでお兄ちゃんが口を開く。
私はそう言ってスマホに地図を開く。
近い。近い。
今、お兄ちゃんは私のスマホを背後から覆い被さるように見てくる。
お兄ちゃんの吐息が優しく首に当たる。
だめなのに。
自分の気持ちを押し殺しながら次の言葉を発する。
「で、いつから?」
腕時計を見て、時間を答える。
私が冷や汗を誤魔化すようにウインクをしながらあざとらしくこたえると、お兄ちゃんが「はぁ。」と、ため息をつく。
そのまま大通りに出てタクシーを呼び、乗り込む。
「はい。」と、運転手さんが答える。
そこから、どんどん目的地に近づくにつれて、メーターが上がるのを観察していた。
やっぱ、タクシーは高いな。
すまない。という罪悪感を抱き、お兄ちゃんの方をみてみる。
足を組み、流れる景色を見ているお兄ちゃんはとても様になっていてかっこよかった。
私がしばらくお兄ちゃんを見ていると、その視線に気づいたのかこちらを振り向き、「ん?」と首を傾げる。
はあ。
反則……。
「なんでもない!」と、直ぐに私も窓の方に視線を映す。
これ以上、この気持ちは膨らませたくないのに。
……きつい。
鳴り止まない心臓が、延々と脈を打ち、私の鼓動を早くする。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。