右の頬や足、腕や手に何か酷く冷たい物が当たってる感覚のせいで目が覚めた。
「んぅ…」
ゆるりと身じろぎをするとジャリ、と砂の噛むような音が響く。それはまるで、コンクリートの上を擦ったような。
だが私の家にコンクリートが剥き出しのままになっている床などないし、ましてや寝るときは布団に入るだろう。何かがおかしかった。
私は徐々にはっきりとしてきた頭をフル回転させ重い瞼を閉じたまま、眠る前のことを思い出そうとする。
(確か、新作のフリーホラーゲームを起動させようとして…)
意識がなくなる前、私は発売されたばかりのパソコンでできるホラーゲームを起動させようとしていた。
そのゲームは初めて見る名前で、作者も聞いたことのない名前だった。
ゲーム実況を見るのも大好きな私が、一度も見たことのないゲームなんて久しぶりだ、とダウンロードを始めた―――
「そんで、何で私は、寝てんのよ…っ」
変な姿勢で寝たからだろうか。ズキズキと痛む体をむりやり起こし、明るい光に顔を顰めながら目を開いた。
「ここ…どこ?」
灰色の壁、灰色の天井、コンクリートの床。ホコリのかぶった家具に半開きのクローゼット。
そして、血のように赤い扉。
「なに、なに?どこなのここ?」
全く記憶にないし見たことがない―――
と言おうとしたところで気がついた。
―――ここ、あのホラーゲームのスタート地点だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。