彼の家の、彼の部屋で、私は独りでうずくまっていた。
そんな私に、彼は優しく声をかけた。
彼は私の前によいしょ、と座った。
私は震える声を絞り出して応える。
私は首を横に振る。
震える拳をぎゅっと握りしめて、涙をぐっと堪える。
すると、彼が私の頭を優しく撫で始めた。
あまりにも想定外な言葉に、私は顔を上げて彼を見つめた。
私の頭を優しく撫でる、彼の手はまだ止まらない。
彼は、懐かしいことを思い出して笑うような、そんな笑顔を私に見せた。
苦笑いしながらそう言う彼の手は、まだ私の頭の上だ。
彼はそう言いながら、私を抱き寄せた。
耳元で、彼の優しい声がする。
───────私は今、幸せ?
当たり前みたいに、遠坂くんと源くんと笑い合って、遊んで、お喋りして。
そばにいるだけで、心が温かくなる。
それってさ、幸せっていうのかな?
そうだったら私は今、凄く幸せだよ。
私は、幸せ。
私がそう言うと、彼は私の耳元で囁いた。
耳元で囁かれるものだから、顔が熱くなる。
幸せ、幸せ、幸せ。
彼は今、幸せなんだ。
私、目標を達成したんだ。
ねえ、遠坂くん。
《幸せ》って、良い響きだよね。
他人から聞くだけで、幸せに感じるくらい良い響き。
私は彼と充分抱き合ってから離れて、笑う。
彼は困ったように笑う。
不思議。いつの間にか、恐怖心なんて置き去りだ。
彼の手がそえてあるスケッチブックには、夕焼けの絵が描いてあった。
綺麗な、オレンジ色。
出会った時は、空色。
私はふと思った。
『明日の色は、何色だろう。』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。