第13話

#13
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2019/05/05 13:48
遠坂 昴
林田さん。
彼の家の、彼の部屋で、私は独りでうずくまっていた。
そんな私に、彼は優しく声をかけた。
遠坂 昴
そんなに、あの悪霊が怖かった?
彼は私の前によいしょ、と座った。
林田 夕稀
....ううん。違う。
私は震える声を絞り出して応える。
遠坂 昴
じゃあ、祓われるのが怖い?
私は首を横に振る。
林田 夕稀
違う。でも、何が怖いか分からない。ただ、何かが怖いの...。
震える拳をぎゅっと握りしめて、涙をぐっと堪える。

すると、彼が私の頭を優しく撫で始めた。
遠坂 昴
うん。そういうこともある。
遠坂 昴
実際、俺も林田さんに会うまではそうだった。
あまりにも想定外な言葉に、私は顔を上げて彼を見つめた。
遠坂 昴
別に、親が怖かったわけじゃないんだ。馴れていたから。
遠坂 昴
けどやっぱり、何かが怖かった。
私の頭を優しく撫でる、彼の手はまだ止まらない。
遠坂 昴
だけど、死んだハズの林田さんが急に目の前に現れて、俺を幸せにするって言ったんだ。
遠坂 昴
俺のよく分からない恐怖心を、ぱーって吹き飛ばすような自信満々の笑顔でさ。
彼は、懐かしいことを思い出して笑うような、そんな笑顔を私に見せた。
遠坂 昴
それから、源くんと一緒に遊園地に行ったりして、凄く楽しかった。
遠坂 昴
恐怖心なんて、知らない所に置き去りだったよ。
苦笑いしながらそう言う彼の手は、まだ私の頭の上だ。
遠坂 昴
それも、林田さんがいたからだよ。
彼はそう言いながら、私を抱き寄せた。
遠坂 昴
ねえ、林田さん。
遠坂 昴
林田さんは今、幸せ?
耳元で、彼の優しい声がする。



───────私は今、幸せ?


当たり前みたいに、遠坂くんと源くんと笑い合って、遊んで、お喋りして。

そばにいるだけで、心が温かくなる。


それってさ、幸せっていうのかな?


そうだったら私は今、凄く幸せだよ。


私は、幸せ。
林田 夕稀
....うん。幸せだよ。
林田 夕稀
幸せって言葉じゃ足りないくらい。
私がそう言うと、彼は私の耳元で囁いた。
遠坂 昴
俺も。
林田 夕稀
....え?
遠坂 昴
俺も、幸せ。
遠坂 昴
当たり前みたいに、林田さんと源くんと笑って、そばにいるだけで温かくなる。
遠坂 昴
それにさ、林田さんが幸せなら、俺は幸せだよ?
耳元で囁かれるものだから、顔が熱くなる。



幸せ、幸せ、幸せ。

彼は今、幸せなんだ。
私、目標を達成したんだ。



ねえ、遠坂くん。

《幸せ》って、良い響きだよね。


他人から聞くだけで、幸せに感じるくらい良い響き。
林田 夕稀
じゃあさ、もっと幸せになろ?
私は彼と充分抱き合ってから離れて、笑う。
遠坂 昴
欲張りだなぁ。
彼は困ったように笑う。
林田 夕稀
ふふっ、かもね。
不思議。いつの間にか、恐怖心なんて置き去りだ。
遠坂 昴
何を、するの?
彼の手がそえてあるスケッチブックには、夕焼けの絵が描いてあった。

綺麗な、オレンジ色。


出会った時は、空色。


私はふと思った。
林田 夕稀
家出しよう。



















『明日の色は、何色だろう。』

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