第8話

#8
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2019/03/24 12:25
源 遥希
は?遊園地行くんですか?
源くんは少し面倒くさそうに、私の頭に付いた枯れ葉を取った。
林田 夕稀
うん!遠坂くんと私だけだと、遠坂くんが可哀想な人になっちゃうから。
遠坂 昴
あー、確かに。
彼は苦笑いしながら、私の頬に付いた泥を素手で拭いた。
源 遥希
てか、それはどうでもいいんです。
源 遥希
先輩、何故こうなりました?
私は、全身泥だらけ、何枚かの枯れ葉を被り、公園のど真ん中でちょこんと座っている。

─────何故って?それはね、
林田 夕稀
触れるのが嬉しくてつい、地面にダイブしちゃった。
触れるのが嬉しい。
人は触れないけど、やっぱり嬉しい。

それは、私の中で絶対に揺らがない心情。
幽霊になったら何も触れないと思っていたから。

だから、余計に触れることが嬉しくなる。
源 遥希
幽霊ってよく分かんねぇ。
源くんはそう言って溜息を吐く。

どうやらこれは、源くんの悪い癖みたい。
林田 夕稀
一応、元人間だよ?
源 遥希
な。
林田 夕稀
先輩なのに...
遠坂 昴
まあまあ。
彼は微笑みながら、私の頭を撫でた。

簡単に女の子の頭を撫でられるなんてさすが遠坂くん、と思った。
遠坂 昴
それで?俺たちを公園に呼んだ理由は?
彼は私の頭の上に手を置いたまま、話を変える。
林田 夕稀
さっき言った通り、遊園地に行こうと思います!
林田 夕稀
私はこの通り、物には触れるので電車に乗れます!
林田 夕稀
そして、私が見えるもう一人の人間、源くんをゲットしました!
林田 夕稀
もうこれ、行くしかない!
私はガッツポーズをとった。
源 遥希
ゲットって...俺、物扱いされてません?
林田 夕稀
まさか。
遠坂 昴
でもまあ確かに、行けるなら行きたいよな。
遠坂 昴
遊園地なら、学生は無料だし。
彼はそう言いながら、人差し指と親指をくっつけて指で《ゼロ》を作った。
林田 夕稀
え、無料なの?
遠坂 昴
確かな。
林田 夕稀
じゃあ、私は遠慮無く入場できるね!
源 遥希
そこ、気にしてたのかよ...
遠坂 昴
さすが林田さん。
彼はにかっと笑った。それを見た源くんも、少し口元を緩ませた。

私も、にこっと笑う。


幽霊になって、彼を幸せにするって決めて、源くんに出会って、遊園地に行く。
それは、普通なら考えられないことばかり。

だからこそ、ドキドキが止まらない。

次はどんなことが起こるんだろう、って。


それって凄く嬉しいことだよね、と静かに思った。
林田 夕稀
じゃあ、遊園地へレッツゴー!
遠坂 昴
えっ!?今から?
林田 夕稀
今日じゃなかったら、いつ行くの?
遠坂 昴
明日とか...
林田 夕稀
だーめっ!
林田 夕稀
明日には、明日にしか出来ないことしなくちゃ!
林田 夕稀
今日は、今日だから遊園地に行くの!
林田 夕稀
そうやって生きてかないと、人生後悔ばかりだよ?
源 遥希
人生も何も、先輩、死んでますよ。
林田 夕稀
そこは突っ込まないでくれると嬉しいな。
源 遥希
はいはい。
源くんは面倒くさそうに、溜息を吐いた。

その癖直らないかなー、とか思ったけれど、まあそれが源くんだしいっか、とも思った。
遠坂 昴
林田さんがそう言うなら、行こっか。遊園地。
彼はまた、にかっと笑う。

いつもの笑顔なのに、その笑顔は私が死ぬ前よりも輝かしく見える。
林田 夕稀
そーこなくっちゃ!
私は二人にピースサインを贈る。


彼が今、幸せなのかは分からない。
けれど私は今、凄く幸せだ。

君も幸せだと良いな、と私は彼に微笑んだ。


私はこの日、自分にとっての《幸せ》が分かったような気がした。

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