第14話

#14
218
2019/03/24 06:52
遠坂 昴
い、家出!?
彼は目を丸くした。
林田 夕稀
あ、ちゃんと親には言うよ?
私は、彼の《家出》に補足を付ける。
遠坂 昴
父さんと母さん、良いって言うかなぁ。
私は、《心配》と顔に大きく書いてある彼の手を、ぎゅっと握ってみる。

そして、顔を彼の顔に近付けて笑う。
林田 夕稀
遠坂くんなら大丈夫!
林田 夕稀
だって、遠坂くんだもん!
遠坂くんなら「それ、理由になってないよ」と言って笑ってくれると、この時は思っていた。

けれど、彼は顔を赤くして俯いてしまった。
林田 夕稀
えっ、どどどどうしたの?
私はおどおどしながら俯く彼の顔を覗いた。
遠坂 昴
い、いや、その......顔が、近い...。
私と彼の距離、わずか一センチ。
林田 夕稀
えっ、あっ、ごごごごめん!
私は慌てて、彼から離れる。
林田 夕稀
と、遠坂くんって、こういうの馴れてるかと思った...
いつも周りに女子がいるから、近付かれたりするのは馴れっこだと思っていた。
遠坂 昴
いつもなら大丈夫だったんだけど、林田さんだと....
彼の顔は、まだ赤い。
林田 夕稀
私だと?
私は彼に、近付きすぎない程に近付いた。
遠坂 昴
い、いや、何でもない!
珍しく、彼は慌てていた。

何だろう、と思っていたけれど、これ以上探るのはやめておいた。
林田 夕稀
まあとにかく!
林田 夕稀
住む場所を確保して、親から免除金を確保して、アルバイト先を確保して、家出だー!
























そして、あれから五日が経った。


住む場所、アルバイト先を確保し、彼は今彼の父親__母親は不在らしい__を説得している。
昴の父親
良いよ。

─────────へ?


想定外の言葉に、思わず情け無い声が出る。


彼も想定外だったのか、口をぽっかり開けて目を丸くしている。
昴の父親
昴も高校生だ。そろそろそう言うと思った。
昴の父親
免除金は月一回、手渡しで。だから月一回はここに戻ってくること。それが条件だ。
家出を許可された上に、免除金までもくれると言いだした。
遠坂 昴
そ、それは嬉しいけど、本当に良いの?
彼がそう聞くと、彼の父親はこくりと頷いた。
昴の父親
最近、母さんもやり過ぎだ。そろそろ逃げた方が良い。
彼の父親は、笑うことなく彼に告げた。
昴の父親
母さんが帰ってくる前に、早く行け。
昴の父親
母さんには、俺が説得する。
やっぱりこの人は遠坂くんの父親だな、と思った。

最初の印象は凄く悪かったけど、しっかり良いところはあるみたい。
遠坂 昴
うん。ありがとう。
彼はそう言って彼の父親にお辞儀をしてから、家出の準備を始めた。



















林田 夕稀
これと、これと、これと...
私は、彼の部屋にある絵や絵を描く道具を荷物にまとめていた。

彼は今、新しい家でいろいろ整理をしている。


──────────何か手伝いたい。

そう思って、私はここに来ている。

彼はまだ高校生で、業者に頼むのは手間がかかった。
だから、彼の荷物は服と小物だけ。


あんな綺麗な絵を置いていくのはもったいない、そう思った私は彼の絵を新しい家に持って行くことにしたのだ。

手伝いたいのと、自分の願望が混ざっている。
林田 夕稀
よし、こんなもんかな。
私はまとめた荷物を持つ。
ふよふよ浮くので、あまり重さは感じなかった。


彼の新しい家を目指し、私は夜空を移動した。



















林田 夕稀
ただいまー。
自分の家でもないのに、帰ってきたよと伝える。

けれど、彼からの返事はなかった。


マンションの四階にある彼の家の合鍵を手に、私は彼の家へと足を踏み入れた。
林田 夕稀
遠坂くん?
名前を呼んでみるも、返事がない。

私は心配になって、早歩き__歩いてはいない__でリビングへと向かった。


空っぽのリビングには、彼の布団が敷いてあった。

その布団に吸い込まれたかと思ってしまうような感じで、彼は倒れていた。

近付くと、寝息が聞こえる。
林田 夕稀
よっぽど、疲れたのかな。
試しに、彼の唇に触れてみる。
遠坂 昴
んー。
しかし、彼は起きない。
林田 夕稀
ふふっ、可愛いなぁ。
私はそう言って、暫く彼を見ていた。






















明日で、ちょうど一ヶ月。

私は祓われなければならない。


本当は少し寂しいけど、きっと大丈夫だよね。



そうだ、祓われる前にちゃんと言わなきゃ。


《好き》って。


もう分かってる。
私が彼を好きだってこと。


そばにいるだけで、どきどきして、幸せで、ちょっとした仕草を見るだけで、心がくずぐったくて、声を聞くだけで安心する。

それってさ、《好き》って言うんだよね。


だからちゃんと伝える。





















『好きだよ。さよなら。』



ってね。

プリ小説オーディオドラマ