源くんにそう言われて、私と彼は同時に応えた。
『『馬鹿でーす!』』
源くんはいつも通り、溜息を吐く。
源くんには、家出のことを全て話した。
勿論、凄く驚いていた。
彼はいたずらっぽく、にんまりと笑う。
私もいたずらっぽく、にんまりと笑い返す。
彼は「まいりました」と両手を上げた。
空はもう暗い。
私たちはその下を、ゆっくり歩いている。
源くんにそう言われて、辺りを見回す。
─────────綺麗。
どこを見ても、星、星、星。
今にも星が降ってきそうだ。
ここは私たちの住んでいる街から一番近い丘。
私は今日、ここで祓われる。
彼が源くんを見つめる。
すると、源くんは何かを察したように頷いた。
源くんは微笑む。
彼は私の手を掴み、源くんに背を向けて歩きだした。
そして、源くんが見えなくなると足を止めた。
彼は私を見つめた。
吸い込まれそうになる程綺麗な目をしている。
彼は息をいっぱい吸って、はっきりと私に告げた。
好き。
その言葉を聞いて思った。
『遠坂くんは、ずるいね。』
私が思っていることを、いつも先に言っちゃうんだから。
でも、そんな所も《好き》。
私は、背の高い彼に届くように、精一杯背伸びをした。
─────そして、一瞬だけ彼と私の唇を重ねた。
私は笑う。
嬉しくて、嬉しくて、仕方がない心をぎゅっとどこかに詰め込んで。
彼の顔は真っ赤だ。暗くても、分かる。
彼は困ったように笑った。
やっぱり好きだなぁ、と思いながら私も苦笑した。
源くんの所へ戻ると、源くんはにかっと笑った。
私と彼の頭上にハテナマークが浮かんでいたのか、源くんはさっきの言葉の意味を語った。
バレてたのか、と私は苦笑する。
源くんは困ったように笑う。
それを見て、源くんも幸せそうだなぁ、と思った。
彼は寂しそうに、だけど優しい表情で笑う。
源くんは私に札を渡した。
あの悪霊みたいに焼かれるかと思っていたので、私は安心した。
源くんはそう言って、よく分からない呪文みたいなものを唱え始めた。
私は笑う。
源くんの頬には雫が付いていた。
私はそれを見て、もらい泣きする。
彼も、頬には雫が付いている。
これは、失う恋。
つまり、失恋。
でも、マンガでみるような悲しい失恋なんかじゃない。
ね?そうでしょ?
遠坂くん──────。
ふと、自分の透けた体を見ると、足が消えていた。
────────ちゃんと、祓われてる。
そして、体が全て消えかかった頃、私は彼に聞いた。
彼は応えなかった。
そして、私は消えた。
彼は最後まで、私の問いに応えなかった。
けれど、ちゃんと応えた。
満面に笑みで。
きらきらした笑顔で。
綺麗な笑顔で。
あ、ほらね、と思う。
幸せじゃない人は、こんな顔しないでしょ?と────。
-終-
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。