第15話

#15
277
2019/04/11 16:51
源 遥希
は?馬鹿なんですか?
源くんにそう言われて、私と彼は同時に応えた。


『『馬鹿でーす!』』
源 遥希
本当、仲良いですね。
源くんはいつも通り、溜息を吐く。

源くんには、家出のことを全て話した。
勿論、凄く驚いていた。
遠坂 昴
馬鹿って言っても、家出しようって提案したのは林田さんだよ。
彼はいたずらっぽく、にんまりと笑う。
林田 夕稀
家出して、良かったでしょ?
私もいたずらっぽく、にんまりと笑い返す。
遠坂 昴
まあね。
彼は「まいりました」と両手を上げた。

空はもう暗い。
私たちはその下を、ゆっくり歩いている。
源 遥希
あ、着きましたよ。
源くんにそう言われて、辺りを見回す。


─────────綺麗。

どこを見ても、星、星、星。
今にも星が降ってきそうだ。


ここは私たちの住んでいる街から一番近い丘。

私は今日、ここで祓われる。
遠坂 昴
源くん。
彼が源くんを見つめる。

すると、源くんは何かを察したように頷いた。
源 遥希
今日だけですからね。特別です。
源くんは微笑む。
遠坂 昴
林田さん。ちょっと来て。
彼は私の手を掴み、源くんに背を向けて歩きだした。

そして、源くんが見えなくなると足を止めた。
林田 夕稀
...どうしたの?
彼は私を見つめた。
吸い込まれそうになる程綺麗な目をしている。
遠坂 昴
林田さん、俺...
彼は息をいっぱい吸って、はっきりと私に告げた。
遠坂 昴
林田さんが、好き。
遠坂 昴
可愛く笑うところも、女の子なのに格好いいところも、全部。
遠坂 昴
好き。



好き。




その言葉を聞いて思った。


『遠坂くんは、ずるいね。』


私が思っていることを、いつも先に言っちゃうんだから。



でも、そんな所も《好き》。








私は、背の高い彼に届くように、精一杯背伸びをした。





─────そして、一瞬だけ彼と私の唇を重ねた。





林田 夕稀
私も、好き。
私は笑う。

嬉しくて、嬉しくて、仕方がない心をぎゅっとどこかに詰め込んで。


彼の顔は真っ赤だ。暗くても、分かる。
遠坂 昴
不意打ちはきついなぁ。
彼は困ったように笑った。

やっぱり好きだなぁ、と思いながら私も苦笑した。




















源 遥希
良かったですね。
源くんの所へ戻ると、源くんはにかっと笑った。

私と彼の頭上にハテナマークが浮かんでいたのか、源くんはさっきの言葉の意味を語った。
源 遥希
だって、伝わったんでしょう?
バレてたのか、と私は苦笑する。
源 遥希
二人でいるとき、凄く幸せそうでしたもん。そりゃ、バレますよ。
源くんは困ったように笑う。

それを見て、源くんも幸せそうだなぁ、と思った。
遠坂 昴
そろそろ、時間だね。
彼は寂しそうに、だけど優しい表情で笑う。
源 遥希
じゃあ先輩。祓いますね。
源くんは私に札を渡した。
源 遥希
安心してください。痛くもかゆくもありませんから。
あの悪霊みたいに焼かれるかと思っていたので、私は安心した。
源 遥希
さよなら。先輩。
源くんはそう言って、よく分からない呪文みたいなものを唱え始めた。
林田 夕稀
...うん。さよなら。源くん。
私は笑う。

源くんの頬には雫が付いていた。
私はそれを見て、もらい泣きする。
遠坂 昴
さよなら。林田さん。
彼も、頬には雫が付いている。



これは、失う恋。

つまり、失恋。



でも、マンガでみるような悲しい失恋なんかじゃない。


ね?そうでしょ?


遠坂くん──────。






ふと、自分の透けた体を見ると、足が消えていた。

────────ちゃんと、祓われてる。

















そして、体が全て消えかかった頃、私は彼に聞いた。
林田 夕稀
遠坂くんは今、幸せ?
彼は応えなかった。




















そして、私は消えた。



















彼は最後まで、私の問いに応えなかった。





けれど、ちゃんと応えた。


満面に笑みで。

きらきらした笑顔で。

綺麗な笑顔で。


















あ、ほらね、と思う。



















幸せじゃない人は、こんな顔しないでしょ?と────。

















-終-

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