ぴたり、と足を止める羽瑠。
その瞳には光なんて入っていない。
焦点の合わない目。
怖くて声が上手く出せないってこういうことなんだろうなって思う。
喉のところで声が詰まる感じ。
頬にあった彼の手は下へと下がってきて今は首元にある。
さらり、と首筋をなぞられくすぐったい。
かと思えばぐっ、と喉元を押されて苦しくなる。
彼が何をしたいのかわからない不安に足され、彼の虚ろな瞳は恐怖を感じるのには充分すぎる。
無意識に震える体で何もできずにいれば
彼の両手はちょうどワイシャツの第一ボタンのところを中心に私の首をぎゅっ、と掴んだ。
なんのことだかわからなかったのは一瞬で、気づいたときにはもう、呼吸が上手くできなくなっていた。
呼吸を遮るその手を離してほしくて 今 私が出せる精一杯の力で彼の手を掴む。
……が、
いくら可愛らしい容姿をしていてもやはり相手は男子高校生。
女の私が力で敵うわけない。
首に巻き付いた彼の手に爪で引っかき傷を残すだけだった。
ふっ、と不気味な笑いを零す羽瑠。
そう言って上げられた顔に映された顔は口元は笑ってるのに目には感情がない不気味な笑顔。
そこに悲しそうな表情の彼が見えたのは
酸素を取り入れようと必死な私の身体と
朦朧とする意識が引き起こした幻覚だろうか。
2018-03-26
✎投稿
2020-06-12
✎加筆修正
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!