視界が歪む 。
頭が痛い 。
周りの音が聞こえない。
ううん。 そんな余裕がない。
もう、すぐにでも途切れてしまいそうなこの意識 手放してしまったほうが楽だろうか 。
聞き慣れた彼の声。
それに安心を感じたのはやはり、羽瑠言う通りの彼に対して恋愛感情を持ってしまっている自分がいるからなのだろうか。
その声の持ち主は私の首にかかる手をガッと掴み彼ごと私から遠ざけてくれた。
恐怖から解放されたことへの安心感か
あるいはただただ意識を保つことが限界だったからか
はたまたそれ以外の何かか 。
ガクリ、と膝の力が抜け、その場に座り込む。
呼吸を遮るものが取り払われ身体はもっと、もっと、と酸素を求め激しく肩を上下させる。
怒鳴り声が聞こえ無意識に前屈みになり下がっていた顔を上げ声がする方を向く。。
目に映ったのは怒ったような、焦ったような來雅とその場にペタリ、と座り込み俯く羽瑠の姿だった。
來雅の声などまるで聞こえていないかのように俯いたままの羽瑠。
痺れを切らしたのか來雅は羽瑠の胸ぐらを乱暴に掴み、無理やり彼を立たせた。
弱々しい、消えてしまいそうな羽瑠の声。
その頬にキラリ、と一筋の涙が伝う。
來雅が言ってることは正しい。
もしあのままだったらと…最悪の事態を考えればゾッとする。
ポロポロと幼い子どものように大粒の涙を流し、“ごめん”と何度も繰り返す羽瑠。
乱暴に瞳から溢れるそれを拭う彼の姿を見れば可哀想だと思ってしまう。
それは來雅も同じだったのだろう。
胸ぐらを掴んでいた手を離し心配の声をかけている。
來雅のその言葉に羽瑠がふるふる、と首を振ったのは
言い過ぎなんてことはない。普通ではないことをした、ということをわかっているからなのだろうか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。