私がイライラしちゃいけない。
わかってる。わかってるけど、どうしてもイライラしてしまう。
それははっきり言葉を紡がない彼への苛立ちか
何故、目の前の人間が怒っているのかわからない自分への苛立ちか。
急に大きな声を上げる羽瑠。
それに驚き、ビクリと肩がはねる。
私が発言する隙なんてないくらい勢い良く言葉を発していく彼は
なんだか……“怖い”。
だってこんなに声を荒らげるなんていつもの可愛らしい羽瑠からは想像できない
“君”
私のことを名前で呼んでくれない。
彼が怒っているときの癖。
名前を呼ぶことさえ嫌なのか。
ただでさえ不安な心にこんな他人行儀な呼び方。距離を感じる。
そんなことない。
來雅とはただの友達でそこに恋愛感情なんてない。
私が好きなのは羽瑠だけ。
そう言いたいのに…恐怖からか声が出ない…
なんとか絞り出した言葉がそれだった。
ぷつり、と何かの糸が切れたように静かに言葉が紡がれる。
ゆっくり、距離を詰めてきた。
今はそれが怖くてどうしても後退りしてしまう。
私が彼から離れた分、その距離を詰めてくる。
怖い…こんな羽瑠は知らない。
羽瑠の冷たい手が私の頬に触れる。
反射的に出た言葉だった。
2018-03-24
✎投稿
2020-06-12
✎加筆修正
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。