第9話

花満くんのせいじゃないよ!
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2019/12/07 08:58


 カーテンの隙間から差し込む夕日で目が覚めると、私は保健室のベッドで寝ていた。

 ふと、ぬくもりを感じて視線を動かすと、花満くんが私の手を握りながら眠っている。

松葉花音
松葉花音
花満はなみつくん、寝顔もかわいいなぁ)


 そんなことを思いながらもう片方の手を支えに起き上がろうとするが、肩が痛んでベッドにまた寝転んでしまう。

松葉花音
松葉花音
っいたぁ
花満周
花満周
ん~? あ、松葉まつばちゃん!
大丈夫!? 腕やっぱり痛む!?
松葉花音
松葉花音
あ、花満くんおはよう。
起こしちゃってごめんね。
……やっぱり、って?
花満周
花満周
そんなの大丈夫だよ!
それより、体とか熱は!?
まだボーっとする?


 そう言われて、階段から落ちそうだったこと、花満くんが必死に手を伸ばしてくれた光景を思い出した。

松葉花音
松葉花音
……あっ! ご、ごめんね、私……!!
か、肩が少し痛いけど、
多分熱は下がってる、かな?
花満周
花満周
謝らないで。俺こそごめんね。勢いよく引っ張って受け止めたから、肩はそのせいだと思う
松葉花音
松葉花音
うぅん、ありがとう、花満くん
花満周
花満周
うん、……けど、本当にごめんね。
俺が早く気付いてれば……、
何も起きなかったのに


 花満くんの悲しそうな表情に胸が痛んだ。

 きっと、私のことだけじゃない何かを思い出している気がする。

花満周
花満周
そういえば! 松葉ちゃん、やっぱり何か悩んでるんでしょ?
松葉花音
松葉花音
へっ? な、なんで?
花満周
花満周
熱で頭の中グルグルしてたのかもしれないけど、考え事してたーって言ってたよ?
松葉花音
松葉花音
……あ、え~っと
花満周
花満周
んー、俺に話しにくい事なら美樹みきちゃんに相談すること! いい?


 少し寂しそうな笑みを浮かべて、花満くんは椅子いすから立ち上がろうとする。

松葉花音
松葉花音
ま、待って!
……あのね、花満くんのことなの
花満周
花満周
……え!? 俺、松葉ちゃんに何か嫌なことしちゃった!?
松葉花音
松葉花音
あぁ! そういうことじゃないの!!
……あの


 花満くんは椅子に座り直すと、私の手を優しく握ってくれる。

花満周
花満周
なぁに? ゆっくりで大丈夫だよ
松葉花音
松葉花音
私……花満くんのそばにいてもいいのかな!?
花満周
花満周
え、もちろん!
なんでそんな風に思ったの?
松葉花音
松葉花音
私と……幼馴染さん、似てるって言ってたから……。
たまに、花満くん悲しそうな顔するでしょ? 私がいるせいで思い出しちゃうのかなって
花満周
花満周
……あぁ、なるほどね。俺やっぱり顔に出ちゃってたかぁ。心配させてごめんね


 花満くんはまた無理に笑っていて、言わない方が良かったと少し後悔してしまう。

 けど、私はそんな表情してほしかったわけじゃない。悲しんでほしくなくて……私にできることなんてないかもしれないけど、どうにかしたくて……。

松葉花音
松葉花音
ち、ちがうの! むしろ、心配したいの! 花満くんがかわいく笑ってくれるのは嬉しいし、大好きだけど、無理してほしいわけじゃないの!!
花満周
花満周
……ふふっ、ありがとう!
けどね? 松葉ちゃんのせいじゃないよ。それは絶対に本当!
だから信じて?
松葉花音
松葉花音
うん、……わかった


 花満くんは私とつないでいる手を見つめながら少し悩んでいるようで、そんな彼の手を優しく握ってみると顔を上げ微笑んでくれる。

花満周
花満周
少しだけ、話聞いてくれる?
松葉花音
松葉花音
うん!
花満周
花満周
松葉ちゃん、俺の笑顔好きでしょ。幼馴染あいつもそうだったんだ。俺の笑顔で辛い事も吹き飛ぶってよく言ってた
松葉花音
松葉花音
その気持ちよくわかる!!
花満周
花満周
ははっ、うん。……けど、それだけじゃだめだったんだ、本当は。他にもできることがあったのに、その言葉を信じ切ってて……
松葉花音
松葉花音
……


 幼馴染さんは事故で……、花満くんは前にそう言っていたけど、他にもできることはあったという言葉にはふくみがあった。

 それ以上聞くことはできないけど、きっと、花満くんが後悔し続けてしまうようなことがあったのかもしれない。

花満周
花満周
たしかに、松葉ちゃんと仲良くしようと思ったのは似ているのがきっかけだったかもしれないけど、クラスでもいつも一歩引いて距離のある松葉ちゃんが気になってたんだ
松葉花音
松葉花音
そ、そうなの?
花満周
花満周
うん、関わっていくうちにもっと笑って欲しいと思うようになって。……だから俺、今がすごく嬉しいよ
松葉花音
松葉花音
私も毎日が楽しくなったよ。花満くんのおかけで友達も増えたの
花満周
花満周
それならよかった!
……こうやって、幼馴染あいつにも何かしてあげられたんじゃないかって、たまに考えちゃうんだ!
松葉花音
松葉花音
……花満くんは優しいね
花満周
花満周
え!? ちがうちがう! ただ、後悔したくないだけだよ。……自分のため
松葉花音
松葉花音
うぅん! 優しい! 写真を撮っちゃったときも、花満くんが助けてくれなかったら大変なことになってたかもしれないし……。けど、私が階段から落ちたのは花満くんのせいじゃないよ。熱のせい! だから気にしないで?
花満周
花満周
ははっ、うん、わかったよ。
ありがとう、松葉ちゃん


 幼馴染さんのことは、やっぱり私にどうにかできる気がしなかった。

 けど、私のことまで気にしてほしくない。

 私が花満くんと一緒にいて、たくさん助けてもらったことを、笑顔にしてもらえたことを伝えて、いつか後悔が和らげればいいと……今はそれを願うだけだった。







      ガラガラッ




保健室の先生
松葉さーん、起きたー? 親御さんが迎えに来てくれたわよー
松葉花音
松葉花音
あ、はーい!


 先生が締め切ったカーテンに歩み寄ってくる中、花満くんが覆いかぶさるように迫ってくる。

松葉花音
松葉花音
えっ……(花満くんっ!?!?)


 優しく包み込むように花満くんの手が背中に回り、ギュッと抱きしめられる。

 同時に体ごと引き起こされ、私は肩の痛みもなく起き上がった。

松葉花音
松葉花音
へっ? あ、ありが、とう?
花満周
花満周
じゃ、また明日ね!


 花満くんはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、先生やお母さんにあいさつをして保健室を出て行く。

松葉花音
松葉花音
(心臓止まるかと思ったぁ~!!)







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