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第7話

悲しい表情の理由
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2019/11/28 09:41


 屋上でののんびりとした時間はあっという間に終わり、予鈴と共に私達は校内へと戻る。

 屋上から階段を下りていくと、ガタイがよく強面の鬼教師と有名な生徒指導の荒牧優吾あらまき ゆうご先生が待ち構えていた。



小川美樹
ちょっと、荒牧あらまきがいるじゃん!
こりゃ怒られるなぁー
松葉花音
松葉花音
そ、そうだよね。……どうしよう


 先頭を歩く花満はなみつくんは恐れる素振りもなく、前を通り過ぎようとする。

荒牧優吾
おい、ちょっと待て


 しかし、荒牧先生は花満くんの肩に手を置いて呼び止めた。

 このままでは花満くんもみんなも怒られてしまう、そう思った私はとっさに2人の間に割り込んでしまう。

松葉花音
松葉花音
あ、あの! 私が、……屋上に行きたいってみんなを巻き込んだんです! ……だから、あの
荒牧優吾
……はぁぁ~


 荒牧先生の盛大なため息は怒りをあらわにしており、私は怒鳴られることを覚悟してゆっくりと顔を上げる。

荒牧優吾
あまね
なんで女子に言い訳言わせてんだ!
行きたいってぐずったのはお前だろ!


 けれど、思いもよらぬ言葉が花満くんへと飛んでいった。

花満周
花満周
俺も驚いたよ!
驚いて一歩出遅れたの!
荒牧優吾
言い訳すんな!
そもそも使用禁止区域なんだからもっと早く出てくるとか、授業始まってから出て来るとか、色々あるだろーが! なにを堂々と予鈴で教室に戻るいい子ちゃんしてんだ!
花満周
花満周
俺が授業に遅刻したら、ゆうちゃん怒るでしょ!?
荒牧優吾
怒るに決まってんだろ!
何言ってんだ、お前は!
花満周
花満周
今、優ちゃんが遅刻しろみたいに言ったのにぃー!


 親しげな二人の会話を私と美樹ちゃんは困惑しながら眺めていた。

田島慧人
いつもこんななんだ。ごめんな
松葉花音
松葉花音
もしかして、
許可をもらってる先生って……
田島慧人
そ、荒牧
小川美樹
なんだぁ、怖がって損したー


 荒牧先生は花満くんの頭をガシガシと乱暴に撫で回し、お互い楽しそうに笑っていた。その光景は、先生と生徒以上の兄弟のような親密ささえ感じる。

松葉花音
松葉花音
花満くんと荒牧先生は親戚なんですか?
荒牧優吾
こんな馬鹿と血縁なわけあるか!
ただの幼馴染だ
花満周
花満周
えぇ、そんなに嫌がる!?
こんなに仲いいのにひどいよ!
荒牧優吾
あー、もういいからお前ら教室もどれ。屋上、これが最後だからな
花満周
花満周
はーい!
ありがと、また鍵借りに行くね!
荒牧優吾
く・る・な!


 花満くんは足早に廊下を走り去って行き、田島くんと美樹ちゃんも行ってしまう。

 私も荒牧先生に会釈をし、追いかけようとしたとき――。
荒牧優吾
お前が松葉だな?
松葉花音
松葉花音
は、はい!
荒牧優吾
あー、……あいつの世話してくれて、ありがとな
松葉花音
松葉花音
そんな、私がお世話になってるので!
いつもかわいい花満くんに元気をもらってて、こちらこそありがとうごさいます
荒牧優吾
ははっ、……確かに似てるな
松葉花音
松葉花音
え?
荒牧優吾
ほら、もう本鈴が鳴るぞ。さっさと教室戻れよ
松葉花音
松葉花音
は、はい!


 似ているという言葉が気がかりだったけれど、私はみんなのあとを追いかけて教室へと戻った。

花満周
花満周
あ、松葉ちゃんおかえり!
さっきはごめんね?
まさか松葉ちゃんが割って入ってきてくれるなんて思ってなくて
松葉花音
松葉花音
うぅん! 私も知らずに言っちゃって、余計怒られちゃったよね
花満周
花満周
だーいじょーぶ!
かっこいい松葉ちゃんが見れてお得だったよ
松葉花音
松葉花音
ふふっ、お得って
花満周
花満周
あー、けど!


 花満くんは教室にもかかわらず、お互いの顔は見えるように私を引き寄せ、みんなの方に背を向ける。

花満周
花満周
さっきは優ちゃんだからよかったけど、ああいうときは前に出てきちゃだめだよ?
花満周
花満周
俺が松葉ちゃんのこと守りたいし


 花満くんの顔はあと数センチの距離で、私は目を見つめることもできず俯いてしまう。

 けれど、そのせいで花満くんの声に全ての感覚が集中し、鼓動がこれでもかというほど高鳴る。

松葉花音
松葉花音
う、うん。ご、ごめんね
花満周
花満周
ははっ、いーえ! ありがとうね


 いつも通りの距離に遠のくと、花満くんはそういえば、と話し始める。

花満周
花満周
ギリギリだったよねー、
何か話してたの?
松葉花音
松葉花音
あ、なんかお礼と……、誰かわからないけど似てるって言われて
花満周
花満周
……あー、なるほどね! うーん……、たぶんそれは優ちゃんの妹かな


 そう答えてくれた花満くんは、最近よく見る悲しい表情をしていた。

 けれど、それはいつもどおり一瞬で笑顔へと戻ってしまう。


 聞かないほうがいいのかもしれない。そう思ったけれど、私は花満くんがなぜ悲しそうなのか理由を知りたかった。

松葉花音
松葉花音
荒牧先生の妹さん?
花満周
花満周
そう、俺とも幼馴染だったんだ
松葉花音
松葉花音
……だった、って、喧嘩しちゃったの?
花満周
花満周
うぅん。交通事故でね、三年前に……
松葉花音
松葉花音
ごめんなさい!
辛いことを……聞いちゃって
花満周
花満周
大丈夫! あ、先生来たね。
また後でね、松葉ちゃん


 きっと、花満くんの心の中に幼馴染の子がずっと残っていて……、そう考えると胸が締め付けられた。

 改札の前で元同級生の子が言っていた「元気になったな」という言葉も、幼馴染の子が関係しているのかも。


 授業が始まっても先生の言葉は頭に入らず、私にできることはないか、ぐるぐると1人で考え込んでいた。