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第1話

君との出会い
11
2018/03/28 18:03
雨の匂い
晴と出会ったのもこんな雨の日だった。
傘が無くて濡れて帰ろうとしていた俺に、そっと傘を差し出してくれた。
その時の彼女の表情は太陽の様に自分を包み込んでくれる優しい笑顔だった。
それから晴は俺に話しかけてくれるようになった。人が苦手だった俺も徐々に晴と話す事に慣れていった。
晴と話していると楽しかった。
それに落ち着いた。

晴と出会って、話すようになって俺は色々変わった。
まず、人と関わるようになった。俺は元々人が苦手で自分から関わりに行こうとはしなかった。相手も相手で関わられたくない事を察して俺に近づいてこようとはしなかった。
でも、晴と話していると自然と周りに人が集まってきた。その時初めてこの学校で晴以外の人と会話をした。
俺が他の人と話している姿を見て晴が嬉しそうにこちらを見ていた事を覚えている。
次に人前で笑顔を見せるようになったこと。
晴に出会う前の俺は人と関わる事が無かったから、もちろん人前で笑う事はなかった。
しかし、晴は周りを笑顔にする力を持ってる。その力によって俺は初めて人前で笑うようになった。
この他にもまだたくさん。
晴に出会って本当に良かったと思う。
付き合ったのは今から3年前、その日も雨だった。
俺がまた傘を忘れて困っていた所に「一緒に帰ろう」そう言って彼女は自分の傘に俺を入れてくれた。
帰り道、晴が何か言った。しかし雨が強すぎて声が聞き取れなかった。
ごめん、聞こえなかった。もう1回
そう俺が聞くと、いつも笑っている晴の表情が固く赤くなっていた。
そして晴が次は俺にも届く声で
…好き。私、秋のことが好き…!
一瞬何を言っているのか分からなかった。
冗談かさえも疑った。しかし、晴は嘘をつくような人ではないし、その時の晴の表情からして嘘ではないと察した。
そして、いつからだろう。自分の中の晴への感情が、こんな俺と仲良くしてくれる物好きな人から一緒に居たいと思う大切な人に変わっていたのは。
告白なんて幼稚園いらいでどう答えていいのか分からなかった。
だから俺は晴を抱きしめた。
そして気持ちを込めて
お、俺も…晴が、好き。
だから、俺と…付き合ってくれる…?
そう告げた。
その時の晴の顔はいつも以上の幸せそうな笑顔だった。
そしてその幸せそうな顔で晴は
うん…!これからよろしくね
そう俺に言った。
それから晴とは3年の付き合いになる。
長いようで短かった3年間。とても幸せだった。
このままこの幸せな時間がずっと続いていくと思っていた。

思っていたのに…。

今、俺の前にいる晴はいつもの笑顔などなく、ただただ病室で寝ている。まるで人形の様に…。

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