来夏と天ヶ崎くんは順調に仲良くなってきているようだ。
最初は弟さんを通していたが、少しずつ来夏と話をする機会も作ったそうで、今は日常的にメッセージのやりとりをしているらしい。
毎日、来夏の恋の進展を昼に聞くのが日課になっていた。
心なしか、来夏は以前よりもっと可愛く、美しくなった気がする。
日常的なスキンケアやメイクの技術が上がっているのもあるだろうけど、もしかしたら恋をしているからかもしれない。
昨日は、夏休みに天ヶ崎くんが出場する剣道の大会に応援に行くことになるかもと話していた。
私も誘われているけど、行くのがいいのか、どうなのか……。
今日の昼にもう一度来夏と相談しよう。
そう思っていたのに、来夏は教室に姿を見せない。
いつもならとっくに来ているはずなのに、おかしい。
2組の教室に行くと、来夏は机に突っ伏すようにして寝ていた。
もしかしたら、体調が悪いのかな。
来夏の席に近づき、声をかける。
来夏は、顔をあげない。
なんだか、いつもと様子が違う。
私は心配になり、来夏の背中を手を置く。すると、来夏は勢いよく体を起こした。
――来夏が、泣いている。大きな瞳からは、大粒の涙が溢れていた。
そう言うと、来夏は教室の外に駆けだしていった……。
私、なにか来夏を怒らせるようなことしたのかな。
それとも、なにか他の問題が起こったとか。
全然思いつかない。思いつかない自分に腹が立つ。
もし、無意識で来夏を、大切な友達を傷つけているなら、私は最低だ。
胸のなかが悪魔に掴まれたみたいに締めつけられて、涙が出てくる。
来夏のスマホに連絡を入れてみたけど、結局放課後になっても返事は来なかった。
……委員会、行かなきゃ。
こんなときに限って、風紀委員の集まりがある。夏休み後に派手なカッコになる生徒が多いからそれの打ち合わせだろう。
正直、そんなことを考える心の余裕がない。
今は少しの風が吹いただけでも倒れてしまいそうなほど、私は落ち込んでいた。
先生の話も頭に入ってこない。
来夏も、そう言えばはじめは校則違反をしていた。
もう、あのときのことが懐かしい。
こんな思いをするなら、来夏と友達にならずひとりぼっちの地味子のままでいとけばよかったのかな。
……ううん、そんなこと、絶対ない。
――えっ。
気がついたら、会議室にほとんど人はいない。
私に声をかけたのは、氷室くんだった。
これからも、楽しんでいただける作品を創れるように頑張っていきます。
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なにとぞ、よろしくお願いいたします!
作者より
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!