第17話

私がなりたい、私
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2022/11/18 22:19
大会当日の朝、寝起きは悪くなかった。

朝6時30分、顔を洗ってから、たっぷりと保湿をする。
こんなにも朝早いのに、すでに遠くからはセミの鳴き声がした。

鏡の前にいるのは、メガネを外した私。
度入りのカラーコンタクトを今日のために注文して、用意しておいた。

今日の私のメイクテーマは「さくら」。
フレッシュでみずみずしい来夏のメイクと違うイメージにする。私は、ふんわりとぬくもりのあるようなメイクを目指す。

カラコンはベージュ系のヘーゼル。直径は14mmで大きめだけど、違和感はない。
プライマーを塗って、化粧崩れはしないように。
ファンデーションは少しだけピンクめのものを。
アイパレットはミルクティーカラー。明るめのパレットを濃いベージュと混ぜていく。
なんだか甘くて、おいしそうな色ばかりだ。この香りも大好き。
ラメとパールもたっぷりと。
目のまわりがキラキラと輝き、まるで魔法がかかったみたい。

ライナーで下睫毛を書いていく。アイブロウはローズピンクを乗せて。

そして、今日のメイクで一番大切なのはチーク。
くすんだピンクを頬にのせると、桜が咲いたみたいに、顔が明るくなる。

リップはマットな質感のレッドを少し馴染ませてから、スモモカラーを合わせていく。

最後にハイライト。ピンクロゼを指で塗っていけば、完成。

ふんわり、儚い、そんなメイクが出来上がった。
いつもの顔色の悪い私はどこにもいない。

来夏に選んでもらった服に着替える。
シフォン素材の白いプリーツスカートは、まるで羽根みたい。
カットソーは薄い桃色。女の子らしさ抜群。

鏡を見てみる。

そこに今までの私はいなかった。



――ふと、気づいた。


私がなりたい私って

メイク……外見のことだけじゃなかったのかもしれない。

オシャレを楽しんで、心から笑えて、
自分に自信が持てる女の子。

それがきっと、私がなりたい、私。

メイクは、それを手助けしてくれるための魔法なんだ。


……今日の私、可愛い!! ……かもしれない!


小さなころに見た、魔法少女のアニメを思い出す。
コンパクトを開いたら、強くて可愛いヒロインになれる。

いつもより少しだけ強く、ドアを開けた。
田中 夢瑠
それじゃ、行ってきます!

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