第11話

地味子は同盟を結ぶ
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2022/10/26 11:16
氷室くんの眼鏡の奥に、優しい眼差しがあった。思わず、吸い込まれそうになる。
でも、これは私の問題だから、氷室くんに迷惑かけるわけにはいかない、よね。
田中 夢瑠
ううん、大丈夫……
氷室 彰
嘘、絶対大丈夫じゃないでしょ。僕で良かったら、話聞くよ
氷室くんは私の隣に座る。
氷室くんは3組で、来夏とは別のクラスだ。

それなら……相談してもいいのかもしれない。
田中 夢瑠
――あのね、私の大切な友達のことなんですけど。
その友達がある人を好きなんです。
私も応援していたの。
順調に進展していると思っていたんだけど、今日その友達のところに行ったら泣いてるし、ほっといてって言われちゃって……理由はわからないんですけど、私なにかしたのかなって、不安で……
話してみると、なんだか来夏の存在が私から離れたような気がして、涙が溢れた。
氷室くんは、黙って私の話を聞いてくれて、ハンカチを渡してくれた。

私の涙が止まるまで、氷室くんは待ってくれている。
どれくらい泣いたかわからないけれど、思いきり泣いたら少し落ち着いた。
田中 夢瑠
ごめんなさい。こんな姿見せちゃって
氷室 彰
いいよ。それより、もしかしたら翔がいらないことを柊木さんに言ったのかもしれないし、僕から聞いてみようか?
田中 夢瑠
……え?
翔って天ヶ崎くんのことだよね。私なにも話してないのに、なんで翔くんの名前が。
氷室 彰
あ、そっか。ごめん。さっきの話だけど、聞いたら誰かわかっちゃって。田中さんの友達って言えば柊木さんだし、最近翔が柊木さんと連絡とってるのも、翔から聞いてたから
田中 夢瑠
え、え!? 氷室くんと天ヶ崎君って友達なんですか!?
氷室 彰
友達っていうか……幼馴染
氷室くんは少しバツが悪そうな顔で話した。
秀才の氷室くんとスポーツマンの天ヶ崎くん。どちらもイケメンだけど、タイプが全然違うのに。
田中 夢瑠
でも、学校でふたりが一緒にいてるところなんて見たことないですよ!
氷室 彰
幼馴染だからってずっと一緒にいなきゃならないなんてことないでしょ
血の気が引く。
来夏が天ヶ崎くんのことを好きなのが、あろうことか天ヶ崎くんの幼馴染にバレちゃうなんて!
田中 夢瑠
――氷室くん。お願いします。このことはどうか秘密に……!!
氷室 彰
もちろん秘密にするよ。ていうか……
私は氷室くんの言葉の続きを待つ。喉がゴクリと鳴る。
氷室 彰
僕も翔から、柊木さんのこと相談されているんだよね。
両思いなはずなのに、なんでこんなことになってんだろう
両思いなの?! やったね来夏! おめでとう!
じゃあ、来夏がいつもと様子が違うのは、いったいなんでなんだろう。

やっぱり、私がなにかしたのかな。
氷室 彰
翔にそれとなく聞いてみるよ。ちょうど部活も終わる頃合いだろうし
そう言うと、氷室くんは天ヶ崎くんに連絡をとった。
氷室 彰
――着替えたらこっちくるって。柊木さんの気持ちはもちろん隠すけど、僕も翔の恋愛はうまくいってほしい。ずっと剣道一筋のやつだったから、どうにか実らせてやりたいんだよ
田中 夢瑠
わ、私も! 来夏って本当に純粋でいい子なんです。だから、この恋を成功させてあげたい……
氷室 彰
なら、僕達も協力する必要がありそうだね
氷室くんがスマホをこちらに向ける。
連絡先を交換するということだろう。
田中 夢瑠
そうですね! よろしくお願いします
今ここに、来夏と天ヶ崎くんの恋を応援する同盟が結ばれたのだった。

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